第69話 ドラゴン(フ)ライダー

 ガーン!?!?!?!?


 俺は今、ショックを受けている。聖女親衛隊……何故、この発想に思い至らなかったのか?! さすがは初代従者(笑)ゼクスだぜ。


 しかも俺の思惑通りに、しっかりつかえている様子だ。(3章 第30話参照)


 ちょっと痛めつけてやるつもりだったが、それをやると何となく負けた気がする。さて、どうしよう?


 こういう時はあれだ。【嘘八百】先生の出番です。


     *     *


「なんと貴殿は、あの聖女ミタライの麾下きかであったか?」


「えっ?!」


 ゼクスの視線が宙をさまよう。


「いやその……き、麾下というわけでは……」


 あれ、親衛隊って正規の部隊じゃないのかな?


「しかし、こやつ等が聖女ミタライ様を探っていたのは事実。それ故、我々聖女親衛隊が、有志を募って国境まで追ってきたのだ!」


「上司の許可は?」


 出てないんだろうなあ。


「えっ!? あのその……」


 再び、さまよう視線。こいつ、帰ったら小隊長のカインさんに、なんて言い訳するんだろうか?


「相分かった! この場はドラゴンフライダー、紺碧のショキが取り仕切る!」


「「「ドラゴン・ライダー?!」」」


「紺碧のショキが命ずる。紫竜パール、降下せよ!」


 振り向かずに右手を挙げる。


『おーいパール。降りてこーい! そこらに転がっている人間を踏まない様に気をつけろよー』


『御意。主殿!』


 グワーンと旋回して地面付近でフワリと俺のちょうど真後ろに着地。チョコンとワンコ座りしたのをドラゴンフライダーのスキル【全方位視野】で確認した。これ、地味に便利だな。


『ちょっと上から睨んでやれ』


『ははっ!』ギロリ。


「「「ヒ、ヒーッ!」」」


 ビオラ、バス、それからゼクスが震え上がる。


 ビシ! ビオラを指さし、軽く【威圧+1】ピロン。


「そこな女。聖女ミタライを調べていたのはまことか?!」


「ハ、ハイー……、本当の事で御座いますぅー!」


「おおかた田舎から観光で出て来て聖女に憧れサインでも、ねだりに行ったのであろー!」


 ちょっと強引じゃないですかね? まぁ、いいや。


「さ、さようで御座いますぅー!」


 さすがに、これはゼクスが突っ込む!


「う、嘘つけー! そんなわけ無いだろう。怪しい覆面姿で王城に忍び込もうとしていたではないか!」


 駄目じゃん、それ。


「たわけめ! それがファン心理というものなのだ。それくらいは、私設応援団ならば理解できぬかぁー!」


「し、私設応援団? ち、違いますぞ。我々は聖女親衛隊です!」


 ゼクスの奴め口調が、かなりへりくだってきました。


「ホー、聖女親衛隊は王宮の正規の部隊なのだな?」


「いや、それは……」


「聖女ミタライの公認なのだな?」


「あうっ……」


 ゼクスの視線が三度みたびさまよう。


「それを私設応援団と言うのだ。この自称親衛隊め!」


「へへーい!」


 ほぼほぼ土下座状態です。おいおい、そこまでする事をないぞー。今【威圧+1】だよね。紫竜パール効果も加味されてんだな、きっと。


「ならば、ここは喧嘩両成敗。双方とも遺恨なく引くが良い!」


「「ははー!」」


「ハーッ!」


 …………? しかし、いつまでたっても双方、動かない。


「あの皆さん、もう行っても良いですけど」


「いえ、ショキ殿。仲間が気絶していて、このまま行くわけには……」


 バスがチラリとセロの方に視線を向けた。


「あっ?!」


 俺は回りに転がっている十数人の騎士やセロをエリアヒールで回復させてやった。もともと、俺の【威圧砲】で気絶しているだけだったので、すぐに全員目を覚ます。


 ゼクス達は這々ほうほうていで王都側に逃げて行ったが、ビオラは俺の方を見て何やら言いたげだけだ。


「ショキさん、助けてくれて有難うござました。なんとお礼を……」


 ここでヨイショされるのも気分が良いが、最後の仕上げた。格好良く去ろう!


「ただの気まぐれ、礼は不要。女性が追われていたから助けたまでさ」


 爽やかな笑顔を向けたが、あいにく今の俺はドラゴンフライダー1号。大きなトンボ目玉のフルフェイスマスクだ。残念!


「紫竜!」


『パール、ちょっと頭を下げてくれーぃ』


『主殿。さっきから紫竜、紫竜と。我の名はパールでありますぞ!』


『まあ、そう言うな。もう少し付き合ってくれよ』


 ブツブツと文句を言うが一応、付き合って頭を下げてくれた。すぐさま背中に飛び乗り、ビオラを一瞥いちべつ


「さらばだ!」クー、カックイー!


「あ、あのショキ様。今は、どちらに?!」


 あれ、さまになってるぞ? ウム、どちらにって聞かれても……これは言うべきか言わずにおくべきか? どちらが格好良い?


「ふっ。また、何処いずこかで会おう!」


 パールがフワリと浮き上がる。


     *     *


「今、戻ったぞー」


「お帰りなさーい!」「お帰りでーち!」


 新居に戻るとすぐにパルとミルが足下に抱きついてきた。可愛い。


 少し遅れてウルゾンも現れる。


「思ったより、早くお帰りでしたね」


「うん、帰りは乗り物を使ったからな」


「乗り物ですか?」


「パール、入ってこい」


 長身の美女が入室。しかもボン、キュ、ボボ~ンだ!


「ヒヒャーッ!!」「デデデーチッチッチッ!!」


 獣人のチビ達は何かを感じたようだ。俺の脚にしがみついてガクガク足を震わせている。チビんなよ。一方、ウルゾンは……。


「ふぇー、ポー……」


 おいウルゾン、これドラゴンだからな。


「我はパール。主殿より賜った、この名前に恥じぬ働きをするゆえ、皆もよしなに頼むぞ」


 まあ、おいおい説明しよう。


     *     *


 新しい住人パールの衣類、家具、食器などを新調していると、瞬く間に1週間が過ぎた。


 そろそろ仕事を始めようかと思ってウルゾンと相談をしていた矢先のことだ。


「こちらは傭兵戦隊【セイント・カイン】サロンマスター、ショキ様の……。いやさ、ドラゴン・ライダー、ショキ様のお住まいでありましょーや?!」


 赤髪太股あかがみふともも女ビオラが訪ねて来た。やけに芝居がかってんな。

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