第63話 友達
知らなかった。俺には使命があったのか!
『嘘八百』先生が続ける。
「今回の私の件については、公にしないで頂きたい」
「しかし、
「その国が不味いのです。任務に関係のないこの場所で、目立ってしまう訳には参りません。何卒お察し下さい」
おお、察して下さいが出た。察してくれるかな?
「うむ、何やら複雑な事情があるようだ。詳しくは聞きますまい。幸い責任者のバーベル男爵は既にお帰りだ。傭兵ギルドと冒険者ギルドの者には
くれました。
「感謝致します」俺が頭を下げると、慌てて礼を言うのはこちらだとお互い頭を下げ合った。
* *
あまり長居をすると、ボロが出そうなので明日の朝、一番で俺だけ帰らせて貰う事にした。子供たちの事が心配なのと疲労を理由にしたのだ。俺の、あの常人離れした動きはスキルのお陰という説明をしたのだ。その説明で何となく納得されたのは発見だった。
『スキルです!』便利な言葉だな。
* *
「ショキ殿。機会があれば、また一緒に仕事をやろうぜ」
そう言って、鉄の旅団代表のリッパーさんに小さなカードを渡された。
「これは?」
「知らないのかい? これは名刺って物だ。ビジネスする時は、こういう物を相手に渡すんだぜ。もし、どこかで俺のギルドのメンバーに会ったらこれを見せてくれ。何か助けになれるかもしれない」
名刺ですか、そうですか。かも知れないと思ったが、やっぱりそうでしたか。
「おい、リッパー抜け駆けするなよ。俺も渡すぞ。あれ、どこに名刺入れを入れたか?」
そう言いながらアニソン傭兵団代表のカミソンさんも、少し凝った色合いの名刺を渡してくる。
それではと、我も我もと全員の名刺を渡された。つまり個人のトカチャンペさんやライチューさんも持っていたのだ。
俺には返す名刺がない。
「名刺は昔からあるが、地方によっては使わない場所もあるからな。ショキ殿が名刺を知らなくても不思議じゃない」
知ってますー!
悔しいので、名刺をくれた人全員にエクストラスキル【友達100人】に登録してやった。
「ステータスの下の【メール】をタッチすると俺と文書で通信出来ます」
俺は一斉送信で、皆に短い文書を送ってやった。
『これからも、どうぞ宜しく!』
メール機能を説明すると驚愕の表情をされた。
通信は基本的に俺と相手との2者間だけだ。実は俺以外の相手同士でも通信出来るが、今はオフにしている。オンオフの設定は俺だけが設定出来るのだ。
俺は得意満面だが、ラムシーさんが困惑顔で言った。
「皆んな、このメール機能は他言しないで欲しい。これが王国や領主様に知られると不味いことになるかも知れない。ショキ殿も、このスキルは信頼できる者のみに教える方が身のためだ」
「全くそのとおりだ!」とか何とか呻くような声が上がる。
「まずかったですか? 登録やめましょうか?」
「いやいやいや。こんな便利なものを今さら取り上げないでくれ!」
口々に訴えるので、そのままにするが、そんなに不味いことなのか?
* *
食後に案内された部屋は、ダーガギーブ隊長という士官の部屋だった。盗賊共に荒らされた様だ。所々、壊れた後がある。
部屋の隅にギターによく似た4本弦の楽器があった。楽器は弾けないがポロンと鳴らすと同時に扉が開いた。
「そんな物がよく残っていたな」
ラムシーさんが、扉を開けてから内側をノックして入って来る。
「森に捨てられたダーガギーブの遺体は見つけることはできないだろう。それは奴の唯一の形見になりそうだ」
そう言って差し出す手に、名前も知らない楽器を渡した。ラムシーさんが、慣れた手つきでチューニングすると、ポロロンと鳴らした。俺のとは明らかに違う音の響きだ。
「私はこの楽器が、あまり得意じゃないのだが、1曲だけダーガギーブに教えてもらったんだ」
彼は友達を悼むようにポロン、ポロンと優しくも物悲しい曲を紡いだ。短い曲を何度も繰り返す。
しばらく、その曲を聴いていたら何となくパムやミルの顔を見たくなったので、そのまま消える事にした。
その方が格好良いかと思ったのもあるけど……。
* *
ラムシーさんと友達の、2人だけにしてあげたかったんだ。
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