第62話 私には使命があります!

「名前は紫竜で良いのか?」


『それは人が勝手に付けた名前でありまする。我には賢者様よりたまわった立派な名前がこざいまする』


「なんて名だ?」


『あっあー。……な、何とした事か、忘れてしまいました。ショックで御座いまするぅ。賢者様、申し訳ござりません!』


「いったいお前の年は、いくつなんだ?」


『……ぬし様。乙女に年齢を聴くものでは御座いませぬぞ!』


「乙女……何だな。100より上か?」


『まあ、それくらいかしらぁ?』


「嘘は付くなよ!」


『主様に嘘は付けませぬ』


「300より上か?」


『……だいだい、そのあたりと思っていただければ嬉しゅう御座いまするぅ』


「500より……」


『さようで御座いますれば……』


「1000?」


『近いような、そうでもないような?』


「2……」


『あぁ、主様ぁ』


「分かった。名前は俺が、改めて付けてやろう」


『かたじけのう御座いまするぅ』


     *     *


 砦の内外で炊煙すいえんが上がる夕刻、俺は戻ってきた。


「どもー」


 森の方角から1人現れた俺に、見張りの傭兵が胡散臭そうに誰何すいかする。


「何者か!」


「あー。傭兵戦隊セイント・カインのサロンマスターのショキです」


「サロンマスター? ……あっ。少々お待ち下さい」


 しばらくすると、門をくぐってラムシーさんや他のサロンマスターらが出て来た。


「無事だったか。ショキ殿!」


「申し訳ありません、ラムシーさん。紫竜には逃げられてしまいました」


「そうか。引き続き見張りを強化しないといかんか。まあ、とりあえず中へ中へ!」


「すぐに夕餉を持ってこさせよう!」


 サロンマスターの皆さんが、口々に指示を出す。えらく待遇が良いのだが。


「食堂には、10人前ほど夕食を用意させろ。酒も忘れるな!」


 ラムシーさんは俺の肩を抱きかかえる様に砦の中に案内した。食堂は幹部専用のようだ。さほど広くはないが落ち着いた雰囲気の部屋だった。


     *     *


「紫竜の後に出て来た緑色の巨大な竜の事なんだが」


 それ聞くよね。しかし俺は断じて青なのだ!


「緑色の竜ですか? おかしいな、青い竜なら見ましたが」


「いや、鮮やかな緑色だ。紫竜を森に投げた後、見えなくなったが、どこに行ったか分かるかな?」


「うーん、鮮やかですか。青だと思うんだけどな……。その2匹の竜を追って行ったんだけど途中で見失いました。今まで探してたんだけど、申し訳ないです」


「いやいや、とりあえずショキ殿が無事で何よりだ!」


     *     *


 間もなく料理が出てきた。思ったより豪勢だ。俺もさすがに腹が減っていたので出される端からマナーも、お構いなしにパクついた。


 ガッツリ食いまくり、アルコール薄目の果実酒を、お代わりしたところで周りを見ると皆が俺を見ていた。あれ?


「落ち着かれたかな、ショキ殿」


 ラムシーさんが口火を切った。


「少し聞きたい事があるんだが……。君は何者なのだ?」


 答えにくい。少しやり過ぎたか?


「俺は……」


 何の言葉も用意していない。だから『嘘八百』センセー出番です!


 手にした食器を置き、背筋を伸ばしてテーブルに座る独り一人に視線を向けた。そして、懐から青い布を取り出して口元を拭ってからゆっくりと口を開いた。


 皆の視線が俺に集まる。


「今、皆さんに詳しい事情を伝えられない事は、私にとって非常に心苦しい思いです」


 おっーと。これ、いつもの俺の口調じゃありませんね。それはそうと、この青い布ってマスクじゃねーかよ、800センセー!


「しかし、これだけは信じて頂きたい。私は皆さんや、この国に敵対する者ではありません。それは、私の行動でしか示せないのが残念です」


 国境なき騎士団のダムキンさんが立ち上がる。


「ドラゴンに単騎で向かって行くなど普通では有り得んことだ。そして、ショキ殿のお陰でが騎士団が助かったのは事実。我等こそ、ここで改めて礼を言わせて欲しい」


 そう言って深々と頭を下げた。


 それを見た各傭兵部隊のサロンマスターや冒険者ギルドの関係者も次々と立ち上がり頭を下げた。


「おやめ下さい。私も今回の討伐隊に参加した一員であります。一時的とはいえ、いわば仲間。仲間を護るのは当然の仕儀しぎであります」


 俺も立ち上がりテーブルに片手を付き右手を胸に、そして目に力を込めて改めて全員を見た。それから……。


     *     *


「私には使命があります!」


 何ですと-?!

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