第61話 1対10が好きなのだ

 紫竜は、かま首を下げ門を睨んだまま口を開く。撃つぞ! というかのようにブレスのタメをつくるが撃たない。


 俺は『隠蔽』のまま急いで正面に回り、そそくさと服を脱いだ。それからマッで職業を指定する。


 ステータスオープン。


「……決定!」


 メキョメキョメキョ……。


 俺の身体が徐々に大きくなり、グングン視線が上がる。やっぱ俺、大きいわ!


 それからゆっくりと『隠蔽』を1つずつ解除して姿を現してやった。


 ぐふふふふ。勇者なんて出し惜しみは、やめた。ドラゴンになってやったぜ!


・名前/タロー ヤマダ

・種族/竜族

・年齢/16

・職業/ドラゴンLv.68

・生命力 8706/8706075

・攻撃力 11608/11608100

・防御力 7255/7255062

・魔 力 4353/4353037


 ステータス値は、そのままでオーケー。奴はコゲ(アースドラゴン)より格下だ!


     *     *


 後の事は全て『嘘八百』先生にお任せして、もう何も考えない。だって俺は『1対10』、ワンサイドゲームが大好きなんだ!


 おいおい紫竜ちゃん。口を大きく開けすぎて顎が落ちそうだぜ。涎が出てるのにも気づいてないようだ。その怯えながら俺を見上げる目が可愛いぜ!


 眼下の小竜の首根っこをムンズと掴み、目の高さまで持ち上げる。ちょうど仔犬くらいのサイズだ。長い尻尾がクルクルと腹の下で渦巻いている。


 俺は仔竜を、そーれとばかりに森の中央に放り投げてやった。


 ズドーン。バキバキバキ。


 俺の竜化の時間は3分。元に戻ると裸だから、すぐに人気の無いところに移動だ。


 ズシンズシンと森の中に入る。おっと、尻尾で砦を壊さないように気をつけないとな!


 振り向くと皆さんが紫竜以上に俺を見て怯えてます。無理もない。


     *     *


 俺が人の姿のまま現れると、紫竜は腰を抜かして後ずさりをした。さぞ尻尾が邪魔だろうに。


 こいつは、さっきのドラゴンが俺だとちゃんと気づいているようだ。


「お前、喋れるんだろう」


 ゴクリと紫竜の喉が動いた。


『は、話せるぞよ』


 実に嫌そうな口調だが返事を返す。


『そ、そなたは竜王様か?』


 竜王ってのがいるのか。こんな時は『嘘八百』先生の出番だな。ピロリン!


「……」俺、無言。


『我は、我が森を荒らされたので人に制裁を加えたまで。何もやましい事は無いのである』


「……」俺、無言。


『森に入った者達は殺したが、外の人間は未だ殺しておらぬぞ!』


「……」俺、無言。


『リュ、竜王はヒ、人の味方をするのかぁー?』


 ずっと腹を見せたままである。


     *     *


「余の前で良くしゃべる」


『……?!』


「いつ、人の言葉を覚えた?」


『へっ? あの、我は生まれてすぐに賢者様によって育てられたのでありまする』


「ほう、人間のペットだったのか!」


『ペット違いまする。娘でありまする!』


「なる程、ペットを自分の子供のように可愛がる人物であったか」


『違いまする。娘でありまするぅー!!』


「お前、人化できるな!」


『ギクリッ』


「もう良い。ティム!」


 俺はエクストラスキルの【優良ドライバー】から『ティム』を発動した。


「これより、お前は余の部下である」


『ははーっ!』


     *     *


「ちなみに俺は竜王じゃないよ」


『はぇっ?』

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