第60話 紫竜戦

「えっ、名乗った?」


 コクコク、コクコク……。ラムシーさんだけでなく、その周辺に倒れている人達も頷いている。


 しまった。調子に乗って名乗ってしまったか。これでは赤髪太股あかがみふともも女を笑えないぜ。


 こういう時は……。


「ラムシーさんは、皆の避難をして下さい。ここは俺が食い止める!」


 ……何食わぬ顔で事を進めるのみ!


 俺は任せろとばかりにバシリと胸を叩いて皆に避難を促し、ようやく立ち上がろうとする紫竜の正面に移動した。


 紫竜は、やや短めの首をこちらに向け、口を大きく開く。シャーと威嚇をするが斬られた羽を気にするようにチラリと金色の瞳を羽に向けている。


 クックック。


 お前、今まで手傷なんて負ったこと無いのだな。そんなものは、まーだまだかすり傷だぜ!


 俺の剣がドラゴンに通用するのが分かったので、今回は魔法攻撃を使わない事にする。流れ弾が味方に当たるかもしれないからだ。でも本当の理由は別にある。


 格好良く見える闘い方がしたいのだ!


     *     *


 俺は、ひん曲がったナマクラ剣を捨て、アイテムボックスからヒカリちゃん(二代目)を取り出した。


 最初ゆっくりと紫竜に近づく。数歩ごとに加速度と……(メーキョーシスーイ)『隠蔽』のゲージを……ピロ、ピロ、ピロ……下げていく。


『自己アピール度=-5』

【-□□□□□□□□□□+】


 完全に存在を消してからのー!


「アタッーク!!」……バシィッ!


『ギャギャーッッ?!』


 まず、一番近い前脚から斬ってやった。尻尾が恐いので前からだ。紫竜は、どこから斬られたのか分からず辺りを見回している。


 さすがに解除の時もゲージを1つずつ戻すのは面倒くさい。俺は一撃後、距離を取って『隠蔽』を解いた。チラリとラムシーさん達を見ると、驚きの顔で俺を見ている。作戦成功だ!


 皆には消えるほどのスピードで動いている様に見えたと思う。格好良くない?


 面倒くさいけど、効果抜群!


 そこからは、まさに蹂躙と言うべきだろう。俺は0対1の投手戦より、1対10の一方的展開が好きなのだ!


 消える。斬る。現れる! 『ギャギャーッッ?!』


 消える。斬る。現れる! 『ピャギャーッッ?!』


 消える。斬る。現れる! 『プャビィーッッ?!』


 消える。斬る。現れる! 『ボギャーッッ?!』


 紫竜、涙目!


 俺に斬られるたびに、ゴロゴロ転がる有様だ。ラムシーさんらも避難を忘れてくちアングリ!


 何度目かの立ち上がりざま、紫竜は四肢を踏みしめた。首をグイと沈めて砦の門を睨む。ブレスの態勢だ!


 その可能性は想定済みだぜ。


 こいつは絶対、ただのトカゲ頭じゃないと思ってたぜ。ブレスを砦に向けたら俺が現れると思ったのか?!


     *     *


 現れて、やろうじゃねーか!

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