第57話 腹に響く雄叫び

 夜が明ける頃、砦の反対側が騒がしくなってきた。森側の門を開けようと攻撃を開始したのだろう。


「そろそろか?」


 ラムシーさんが空を見上げるのにつられて俺も見た。


 ヒュルヒュルヒュル、ポン。


 何とも気の抜けた音だが、ファヤーボールを応用した狼煙だ。あちらの門が開いたようだ。


 今まで、ダラリとした攻撃隊の空気が変わった。ピンと一本、筋が通ったような雰囲気になる。


 一瞬、砦の銃眼からの矢が止まり、物見の盗賊共も空を見上げた。


 ビッと攻撃隊の真ん中が割れ、後ろに待機していた傭兵サロン『国境なき騎士団』が最前線に押し出す。


 その騎士団に護られるように、3人の魔法使いも全面に移動した。


「「「爆裂魔法! エクスプロージョン!!」」」


 ズドドドーン!!!


 火魔法系最大魔法の一つだ。3人の魔法使いが同じ魔法を門扉に放った。と、同時に『国境なき騎士団』20名の突撃。僅かに残った扉の残骸を蹴散らし侵入!


 すぐに扇型に展開すると自らのフルプレートの身体と大盾で橋頭堡を確保、続いてなだれ込んだ冒険者達を守った。


 アーチャーら遠方攻撃が得意な冒険者が盗賊共を牽制後退させると、腕自慢が飛び出し各個撃破にかかった。敵の攻撃の厚みがないのは反対側に加勢に行ったせいもあるだろう。


 俺は砦の中を剣も抜かずブラブラ歩いて討伐隊の奮戦を眺めている。もちろんスキル【自己アピール】の『隠蔽』を使用中だ。メーキョーシスーイ!


 ラムシーさんの言うとおり、侵入したら終わったも同然のようだ。狭い砦内で盗賊達は数の有利を発揮出来ずに、各個に倒されている。これなら、野外で闘った方がマシだったのではないだろうか?


 あちこちで盗賊共が討ち取られ、中には闘う前に得物を放り出して命乞いをする奴まで出ている。


 後から入ってきた冒険者達は闘うというよりは武装解除した盗賊達を一所に集める作業をしている。実に、つまらなさそうだ。


 とても盗賊には見えない貧弱そうな年寄りや年若い者までいる。勢力を拡大するためか、食い詰めた者まで全て受け入れたようだ。しかし、この砦にいた兵達を皆殺しにした盗賊団の一員となったのだ。今後の処遇に慈悲はないかもしれない。


 ウルゾンも俺と出会わなかったら、おそらくこの中に居たんだろう。そう思うと感慨深いものがある……。ウッシ。もうちょっと、こき使っても大丈夫!


     *     *


 砦内ではまだ散発的に戦闘が繰り広げられてはいるが、全体では終わったも同然だった。


「こんな所にいたのか」


 ラムシーさんが俺を見つけて声を掛けてきた。黙って見物に来たから怒られるかな?


「済みません。見ていたらウズウズして、いても立ってもいられずに来てしまいました」


「かまわんさ。どうだったかね、戦場は?」


「あなたが言ったとおり、突入したら終わりでしたね。冒険者の皆さんも見事でしたが特に『国境なき騎士団』が凄かったです」


「彼等は本来騎馬戦が得意なんだがね。戦争が始まると彼等を雇おうと争奪戦が始まるくらいさ。全員が貴族出身だからプライドが高いが、下手に出てさえいれば扱いやすい連中さ」


「カーッペッ! あいつら脳筋だから煽ててりゃ良いのさ。それより、思ったより反撃が少なかったなや。もうちょい抵抗が在るかと思ったんだけんど!」


 いつの間にかトカチャンペさんが隣りに来ている。そして、もう一人ライチューさんが怒りながら言った。


「バカヤロー。あんなトーシロ共の事なんかどうでも良いんだよー。それより砦の守備隊の遺体が見つからない方が気になるぜ!一体どこにやったんだよー?」


「うむ。森に捨てたと思ったんだが、その痕跡がないのだ」


 ラムシーさんは相変わらず冷静な口調だ。


     *     *


「報告します。捕らえた盗賊共の幹部によると、主力の『灼熱の風』の残党の殆どが魔物の森への通路から抜け出した模様です」


 冒険者らしい男は青い顔をしている。


「馬鹿な?! 何を考えているんだ、そんな事をしたらどうなるか分からないのか?」


 ラムシーさんも信じられないという風だ。


「なんだバカヤロー。そいつら、分かってないんだよー。ヨソ者だろ『灼熱の風』の残党共はよ。そもそもコーエン国の人間なら魔物から街道を護っている、この砦を襲って占領しようなんて考えねーよー!」


 見かけによらず、説得力のあるライチューさんの発言である。


 その時……。


 ギュオォォーッ!


 腹に響く雄叫びが一つ。


「あー!」「カーッペッペッ!」「な、なんだバカヤロー!」


 伝説の傭兵サロン、元『ターズド・リーフ』の3人は状況を悟って絶望的な表情を見せた。


     *     *


 でも俺は、この時ちょっとワクワクしているのを顔に出さないように必死に堪えていたんだ。

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