第56話 千軍将軍の顔

 翌朝、日の出前に討伐隊は馬車に分譲して街を出発した。


 我がセイント・カインからは俺だけ参加。ウルゾンと子供達は留守番だ。子供達は一緒に行きたがったが、さすがにねぇ。その代わり、お土産を買ってくることを約束した。まあ、帰ったらこの街で買うんだけど……。


 各傭兵サロンからは10名から20名ほどの人数だった。これは、俺が思ったより少ない人数だ。ラムシーさんに聞くと、報酬も少ないし怪我をしても馬鹿らしいので腕利きばかりを選抜したらしい。


 傭兵ギルドからは総勢で50人ちょっとだ。


 一方、冒険者ギルドは100名以上いるそうだ。個人的には凄い冒険者も多くいるそうだが連携に問題があって戦力的には、この人数で傭兵サロンと互角なのだそうだ。


 最後に、この街の領主キントレー伯爵から騎士団が10名ほど出ているが後詰めだ。名目上この討伐隊の責任者、バーベル男爵の護衛を兼ねるため戦力的には当てにならない。


     *     *


「この討伐は隠密に行う。できるだけ目立たぬ様、行動してくれ。しゅっぱーつ!」


 ゴトゴトゴトゴト。


 バーベル男爵の号令一下、討伐隊馬車一行が進み始める。200名近い人数だ。ながーい車列になっている。


 隠密って……無理だろ!


 俺は兵站を担当するラムシーさんら、傭兵ギルドの職員の皆さんと同じ馬車に乗せて貰っている。知らない人の中にポツンと一人とか無理だ。良かったー!


 時間調整のため途中の森で野営。到着は翌日未明、1日がかりの行程だ。


     *     *


 夜明け前、討伐隊は砦から一番近い森に潜んでいる。


 ここから見える魔物防災砦。正式名称『コーエン国境付近通商中継地点警備隊及び魔物の森監視防災部隊駐屯所砦』は、高い石造りの、なかなか堅固な要塞だった。但し、こちらから見えているのは裏側で反対側の魔物の森側が正面だそうだ。


 裏側でも充分頑丈そうだが正面側は、こちらの倍くらい頑丈だとか。


 最新情報では、この砦の中に1000人近い盗賊共がいるそうなのだ。300から500じゃなかったのか?!


 簡単に作戦を聞いたが、正に簡単な内容だった。


     *     *


 冒険者ギルドのほとんどと、傭兵サロンの内の『国境なき騎士団』が正面から……。


「わー」っと派手に攻める。


「「わー。わー。わー」」今、攻め込みました!


 これ、隠密の作戦じゃなかったのですかね?


 総勢100名以上のおっさん達の野太い声が響いて、けっこうな迫力です。でもある程度、距離を保っていますから本気で攻めているわけでは無いようですね。


 砦の方もすぐに明かりが灯りました。討伐隊が来ているのは、既にバレていたと思われます。


 俺は後詰めの部隊の担当ということで、後方でバーベル男爵やラムシーさんらギルド職員の皆さんと見物です。


 砦から矢がパラパラと、飛んできますが届きません。


「ふん。素人共が無駄に矢玉を使ってくれる」


 ラムシーさんが珍しく、苦々しく呟いた。


 実は砦の中には冒険者ギルドの『盗賊シーフ』スキルを持つ斥候が潜入しており、中の情報が次第に伝わってきていた。


 砦に駐屯していた兵隊や騎士達は皆殺しだったそうだ。その情報を聞いてからラムシーさんの機嫌が悪くなった。


 砦のダーガギーブ隊長という人が、古い傭兵仲間だったそうだ。


     *     *


 つまり、騒がしいだけで攻め込む気がない正面の主力は囮だ。


 そして、魔物の森側から冒険者ギルドの腕っこき数人が、中の『盗賊シーフ』と協力して扉を開ける。


 そこに『鉄の旅団』『アニソン傭兵団』『傭兵団ヘオン』ら、残りの傭兵部隊がなだれ込む手はずになっていた。


 そうして中を混乱させたら、今度は正面の扉を『魔法使い』が扉を破壊し侵入するという作戦だ。


「それでも、こちらは150人くらい。盗賊は1000人もいるんですよ。中に入れてもこちらが不利では?」


「心配いらんさ。あいつらは所詮、烏合の衆。こちらは中の武器や食料の数まで分かってるんだ。あの砦に1000人もいたら、もう食料も水も既に無くなっている。ほとんどの奴がまともに武器さえ持ってないだろう!」


「そうなんですか!」


「この作戦は、砦の扉さえ開けば終わったも同然だ。あいつらは、やっちゃいけない事をやりやがった。その酬いを受けさせてやる!」


 あの砦は魔物から人を守る拠点なだけに、入るのは非常に簡単だったそうだ。それにつけ込んで、盗賊共は侵入占領したようだ。


     *     *


 いつもは穏やかなダンディーおじさんラムシーさんだが、今は既に伝説となった傭兵サロン『ターズド・リーフ』の副長【千軍将軍】の顔になっていた。

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