第54話 全員集合

 分厚いステーキが3枚。異世界の軽食、恐るべし!


「でちでちでちでち!」


「ハムハムパムパム!」


 猫獣人の子供2人は分かる。育ち盛りなのだろう。


「ガツガツガツガツ」


 ウルゾン。君は、ついこの前まで盗賊団の頭目だったよね。初出当時の大物感、全くなし。これじゃあ、まるで俺が飯食わせてないみたいじゃないか!


 ライス大盛りハンバーグセットを注文したラムシーさんが言った。


「ショキ殿は、それで足りるのかね?」


 俺はサンドイッチだ。軽食の王道。良いんだこれで!


「私は、このライスが好きでね。何でも、かつて勇者が好んで食べたとか」


 ラムシーさんも上品にモリモリ食ってやがります。軽食か? 軽食なのか?


     *     *


 大盛りライスをきれいさっぱり平らげた後、ラムシーさんはワインを飲みながらサラリと聞いてきた。


「あの魔石は、どこで手に入れたのかな?」


 なんと答えれば……?


 あのアースドラゴンの魔石は、1つおよそ金貨200枚位の価値があるそうだ。売れたら差額は返してもらうことになっている。面倒なので、そのまま魔石で支払った事にしたいと言ったら、そういうわけにはいかないとたしなめられた。


 傭兵ギルドって、もっと荒っぽいイメージがあったのだが、それはサロンの方でギルドは管理する役所のような雰囲気だ。


 さて、俺が返答に困り黙っていると……。


「言いたくなければ、かまわんさ。君とは長い付き合いになりそうだ。そのうち話したくなったら教えてくれ」


 嫌味のない言い方がまた素敵だ。大人になったらこんな人になりたいな!


 本当は……今すぐ、しゃべりてー! 聞いて聞いて。あのね、あのね!


 ……って気持ちなのに『嘘八百』が黙ってろって指示しやがるからしょうがない。『嘘八百』先生は、いつも正しい!


     *     *


「副ギルドマスターのラムシー殿では?」


 カウンターで飲んでいた二人ずれの片方が声を掛けてきた。


「貴公は?」


「はい。私はカゲンガーク王国のサロン、ヘオン傭兵団のコンダクであります」


 直立不動だ。


「まあ、こんな場でそう緊張なさらず」


「いえ。我ら傭兵には【千軍将軍】調教師テイマーラムシー殿の名は憧れでありますから」


 すんげー二つ名。


「千軍は大袈裟なのだがね。せいぜいが50程だよ。それも昔の話だ」


 ふふ、昔の話だよ。いつか言ってみたいぜ!


「カゲンガークのヘオン傭兵団といえば、ビオラ殿の?」


「はっ。隊長は現在、任務で街を離れております。内容はご勘弁を……」


 それ、知ってます。そうかそうか、あの赤髪太股女の部下なのか。はい。馬鹿認定! 俺はきっぱり、この男を忘れる事にした。


「こちらの方は?」


 ラムシーさんのワインを御相伴しているウルゾンの事を聞いてきた。やっぱり馬鹿だ。っていうか食いついてくるなよ!


「いや、彼は……」


 ラムシーさんが少し困り顔だ。


「ふぇっ?」


 ウルゾンも赤い顔して変な顔するな!


「傭兵戦隊セイント・カインのサロンマスター、ショキです」


 俺は立ち上がり、頭を深々と下げてやった。


「えっ、こちらの方が? ええっ、サロンマスター? いや。こ、これは失礼しました」


 本当に驚いたようだ。憧れの【千軍将軍】に挨拶もそこそこに自分のカウンター席に戻ってしまった。


「ふふ。本当に若いのに見事なものだ。君を見ていると自分の若い頃が恥ずかしくなってくるよ」


 いえ、全て『嘘八百』先生のお陰です。


     *     *


 友好ムードのなか、そろそろお開きにしようとする頃、入り口が何やら騒がしくなってきた。


「ラムシーはおるか? ラムシー!」


「あれは、領主の館に呼び出されていたギルドマスターのヤリカーイだ。ちょうど良い、君のことを紹介しよう」


 いきなり現れたギルドマスター・ヤリカーイは老齢で長身の痩せたゴリラという印象だ。


 しかし、このラムシーさんの上司なのだ。きっと立派な人物なのだろう! 立派だよね。


「そこに居たかラムシー! 今晩、緊急の集会を行うぞ。サロンマスターは全員参加だ。これから打合せを行う。来てくれ!」


「何やら緊急の用件みたいだ。済まないが君も今晩、来てくれ!」


「分かりました。今晩って何時でしょうか?」


 ……聞こうとすると、ギルドマスター・ヤリカーイがフロアにいる全員に向かって。


「ウオッス。みんな今晩8時に訓練場に集まってくれ-! 全員集合だー!」


     *     *


 だと思った。

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