第52話 察してくれ

 国境の街スナバに到着。ここからはウルゾンに案内を任せる。馭者時代に何度もここには来ていたからだ。


「身分証がない者が入場するには1人銀貨1枚が必要です」


「子供でもか?」


「はい。でも身分証明書を作れば返ってきますから。ちなみに俺も今、身分証を持ってやせん。てへっ、スイヤセン!」


 仕方なく、門で銀貨4枚を払って入場した。


「ショキ様、身分証を手に入れるには冒険者ギルドへ行くのが定番でやす」


「うん。だけど今回は傭兵ギルドへ行く」


 実は、俺や御手洗会長らは冒険者登録をしている。ここでギルドに行って足がつく可能性を考えて別なギルドに再登録することにしたのだ。


 傭兵戦隊だしね!


「傭兵ギルドにゃ行ったこと無いんで、あまり役に立ちそうにありやせんぜ!」


 傭兵ギルドは戦争の兵隊が一番の仕事だが近年、大きな戦争もなく国や地方領主に雇われるのが一般的だとか。


 商売人では比較的、大店が傭兵ギルドを利用することが多いそうで、一般人には馴染みがないとのことだ。


 最近では冒険者ギルドの仕事と重なって揉めたりすることもあるらしい……ウルゾン談。


「でも、場所は分かりやす。こっちでやす!」


     *     *


「ここが冒険者ギルドです。って言われても違和感ないな」


 カウンターがあり掲示板があり、奥には酒場もあった。しかし、思っていたような荒くれ者や粗野な人物はいない。酒場でも上品そうな男達が数人で静かに飲んでいる。


「買い取りカウンターとかも無いんでやすよ。採取とか魔物討伐とかは、あまりやらないようなので」


 これくらいは常識的な知識だとか。


 受付カウンターには、女性でなく中年の渋い男性だった。


「登録したいんですが」


 男は目を開いて、少し間を置いてから静かに言った。


「失礼、護衛の依頼かと思ったものでね。……冒険者ギルドと間違えて来たんじゃないのかい?」


 物腰の柔らかい口調だ。こういう相手にはこちらも礼儀正しくありたいものだ。


「いえ、こちらで間違いありません。訳があって傭兵ギルドに登録する必要が出来たもので……」


 礼儀正しく言ったが、内容を正直に話したらきっと怒るだろうな。名前を『傭兵戦隊セイント・カイーン』にしちゃったから! なんて言えません。


「ふむ……」


 受付の男は丁寧に傭兵ギルドの事を教えてくれた。


 傭兵ギルドは基本的に『サロン』と呼ばれる傭兵団が加盟するギルドである。例外的に個人が加盟する事もあるが、ギルドマスターの推薦が必要だとか。つまり……。


「どこかの傭兵サロンに参加するか、諦めて冒険者ギルドに行くことを、お勧めしますよ」


 個人の参加は無理って事だな。


「ちょっと待ってくれ、受付のダンナ。こちらのショキ様は、お若いが非常に腕の立つ戦士なんだ。少し話を聞いてくれ!」


「なんだね君は?」


「俺はショキ様の奴隷でウルゾンと言いやす」


「奴隷? 君は、貴族のご子息か何かなのか?」


 ナイス、ウルゾン。よし、その流れに乗ろう!


 エクストラスキル『嘘八百』発動。


「いや、違う。違うが……。そこは察して欲しい」


 さて、何をどう察してくれるか?


「うーん。ところで加盟は君だけか?それとも、その奴隷のウルゾンと二人なのか?」


「いや、4人だ」


「4人?」


 あー、これは駄目だろうなぁ……。でも仕方ない。


 俺がミルを。「でちー」


 ウルゾンがパムを。「えへへ、こんにちは」


 カウンターから頭が出るまで持ち上げると、男性の顔色が鮮やかな変化を見せた!


「馬鹿にしているのか君達は!」


 大声で叱られてしまった。


 当然ですね。ミルなんて2才だもんな。すみません。廻りの人達や、他の受付の係員達も驚いたようにこちらを向いている。誠に恐縮いたします。


 し、しかしだっ! 察してくれないかなぁ?


「ま、まあ。手がない事も……ない!」


     *     *


 えっ、察してくれた?

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