第51話 書を記す者

 圧倒的な力の差を見せ付けて、相手の心を折る。こういうのが大好きだ!


「おんな! 何故、子供を攻撃した!?」


「はっ? 何を言ってるの、貴方なんか知らないわ。先に貴方が急に現れて私達を襲って来たんじゃないの!」


「惚けるな!」


 ドドーン!!


 赤いミノタウロスの、でっかい顔部分をアイテムボックスから出してやりました!


 ムワンと死臭が立ちこめます。


「「「ひぃぃー?!」」」


「お前ら、ミノタウロスから逃げる時、俺達に擦り付け様としただろう!」


「……はっ! あの時、草むらにいたのは人間だったの?!」


 擦り付けるつもりはあったが、それが動物か何かがいると勘違いしたらしい。


「ショーキ様ぁー!」


「ショキ兄ちゃーん!」「でちでちー!」


 ウルゾンと子供達が手を振ってやって来た。


     *     *


「「「申し訳ありません!」」」


 女、ビオラは攻撃した相手が幼いミルだと知って、かなり落ち込んでしまった。


「ご免なさい、ミルちゃん。お姉ちゃんを許して……」


「でちー!」


 ギュッと抱きしめられミルは、ちょっとご機嫌だ。パムは羨ましそうだが。


「変異種のミノタウロスを一刀とは……。穏形の技といい、この切り口といい凄まじい腕前だ!」


 ミノタウロスを触りながら、戦斧使いのバスが感嘆の声をもらした。


「全くだぜ。俺達が手も足も出なかったなんて初めてだったが、当然だったな。ショキさんが反撃していたらと思うと鳥肌が立っちまうぜ!」


 両手剣のセロが俺の腕前を褒めたたえる。顔がユルユルになっちゃうだろが、バカヤロ!


「でも、何故あんな草むらに隠れていたの? 貴方ならミノタウロスなんか恐れる必要もないでしょうに!」


 ギクリ。い、言えねー!


 こいつらとミノタウロスの戦いを見物しようとしてたなんて!


 こういう時はボロが出る前に……エクストラスキル『嘘八百』発動。


     *     *


「なる程、子供達のレベル上げのために隠れて獲物を仕留めていたのね」


 まあ、この辺は真実だ。嘘をつく必要もない。


「ところでショキ殿は、どちらの方であろうか?差し支えなければ……」


 オットきました、この場合なんて言えば良いだろうか?


 ん――、分からない。『嘘八百』に身をゆだねましょう!


「えーと……」


「その黒目黒髪。そして、その腕前。ハポン国の出身でしょう!」


 なんか勘違いしてますね。『嘘八百』が沈黙します。黙っとけって事ですね。


「ズバリ。このコーエン王国の【召喚勇者】を調べに来たのじゃないかしら?」


 こういうのも『嘘八百』の効果なんですかね? 勝手に情報を出してくれてます。気になる事も言ってますので、このまま黙ってましょう。


「ハポン国の人の名前の大半は意味があると聞いた事があるわ。ショキというのは何か意味が?」


「書を記す者……だな」


「くっくく。まあ、素敵。それに正直な方ね。ハポン国の出身と認めたようなものよ!」


 はっ、とした表情が『嘘八百』によって作られた。


 与し易しと感じたのか元々お喋りなのか、このお姉さん、益々口が滑らかになっていきます。


「うふふ。いくら腕が立っても顔に表情が出るのは感心しないわね。お若いからしょうがないけれど」


 お姉さんも、そこそこ若いと思うがそれにしても何のレクチャーをしてくれてるのでしょう?


「もう察しがついたと思うけれど、私達も貴方同様【召喚勇者】を調べにこの国に入ったのよ。どこの国かは聞かないでね」


 そうか、俺は御手洗会長達を調べに来てたのか。


「隣国ランゴドルバ国では?」


 この名前しか知りませんから。


「友好国のランゴドルバの名前を出すなんて、それほど鈍いわけでもないのね。近いけど違うわ。友好国ほど戦力のバランスが気になるものなのね。国の偉い人ほど臆病なのは、どの国も同じようなものよ!」


 勉強になります。


「どう、私達と手を組まない? 私達は貴方の力が欲しいわ。貴方には私たちの情報と経験を提供するというのはどうかしら?」


「用は済んで、これから別の任務に向かうところなんだ」


 ハポン国なんて、どの方角か知りませんから。


「なんだ残念だわ。偉そうに言って出遅れたのは我が国の方だったみたい」


 俺達は、この場で握手して別れた。


 御手洗会長らの心配しないのかって?


 だって……。


     *     *


「カゲンガーク王国に来たら傭兵ギルドに寄ってちょうだい。ビオラの名前を出したら私に通じるようにしておくわ!」


 馬鹿だもん、こいつら!

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