第50話 二人でお茶を

「もうこの辺で良いわ。降ろしてちょうだい」


「いえビオラ様、もう少しで街道に出ます。そこまで!」


「貴男たちの髭が痛いのよ。頬を私の脚に当てないで!」


「「……失礼いたしました!!」」


「あの木陰で休憩しましょう。それにしても、保存食に飽きて新鮮な肉を調達しに入った森が魔物の森だなんて付いてないわ」


 男の一人がアイテムボックスから飲み物を取り出す。もう一人は折りたたみの椅子と小さなテーブルを出した。


「しかも森の外と言っても良いくらいの所で、あんな大物がいるなんて聞いたこともない事よ。肝が冷えたわ」


 出されたお茶を一口。ふーっと一息。


「ビオラ様。あのケンタウロスは、何かを夢中に食べていたようでした」


「そうね。でも食べ終えたら、こちらに向かって来たかもしれないわ。いずれにしても、任務の前に怪我でもしたら大変だったわね」


     *     *


 俺はアイテムボックスから自前の椅子を取り出し、女の横に座った。


 テーブルの上の奴らのポットからマイカップにお茶を注ぐ。コポコポ。美女と飲む、お茶はまた格別だ。


 さすが『隠蔽』。ここまでやっても気付かれない。それでは解除します!


「任務って何だい?」


 ガタ、ガタガタッ!


「誰?!」「何者!」「セロ!」


 セロと呼ばれた茶髪が素早く剣を抜いて俺に斬りかかる。


 セロと叫んだ、もう一人が女を横抱きに抱え後退。


 そのセロの攻撃が素晴らしい。袈裟懸けから、切り上げ、左右にいで止めの突き!


 パチパチパチ。淀みなく流れる攻撃に拍手を送る。もちろん座ったまま。カップを持っているので格好だけで音は立たない。


 その代わり、俺の身代わりにお前らのテーブルがバラバラだ。あはははは。セロ涙目。


「バス!」


 セロが一旦、俺と距離を取ってバスに助勢を乞う。


 いや、べつに距離を取らなくても良かったのに。


 バスの得物は、でっかい戦斧せんぷだ。それを両手に1本ずつ。戦斧使いなんて初めて見た。ブンブン振り回す膂力りょりょくが目立つが、見事な脚捌あしさばきと体幹が凄い!


 回転しながらの攻撃で軸が一度もぶれてない。さっきのセロの連続攻撃も鮮やかだったが、それ以上だ。


 バスの僅かな攻撃の隙間をセロが埋める。大したコンビネーションだ。さすがにカップはアイテムボックスに仕舞った。俺の椅子が壊されるのも嫌なので時々は立って攻撃を避けなければならない。全く大した奴らだ。


 パチパチパチパチ。カップは仕舞っているので、今度はちゃんと音が出た。


 褒めてるんだぜ。俺は大げさに右の口角を上げてやった!


 二人の顔が歪んで涙目。


「二人とも退きなさい。アイスジャベリン!」


 どんだけ、アイスジャベリンが好きなんだよ、この女!


 セロとバスが距離を取る。いや、取らなくて良いって!


 虚空の魔方陣から氷の槍が現れた。


「ファイヤーウォール!」


 ジュン!出たばっかりの氷の槍を一瞬で溶かしてやった。奴ら、目ん玉が飛び出しそうだ。


 エクストラスキル『自己アピール度=+3』

【-■■■■■■■■□□+】


 ピロピロピロ。『威圧』発動!


「ぼーっとしてんじゃねーよ!!」


「「「ひぃぃー?!」」」


 3人とも、ひっくり返ってしまった。絶対チビッたと思うぞ。


「あ……貴方、何者よ。いきなり襲いかかって?!」


     *     *


 ……? 俺、一度も攻撃してないよね。

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