第29話 就業

 魔素が激しく噴き出す。黒い霧が塊になっている。


「まだ生きているのですか? さすが異世界人。そろそろ魔物が姿を現しますよ。早く死なないと、生きたまま食べられてしまいますよ」


 勝手な事を言うな! でも、もう体が痺れて動きません。目はまだ見えます。声は……こんな感じてす。


「ビダガィガチョォ……ビザガジィデグジャジャイ(御手洗会長、膝貸して下さい)」


     *     *


 ゼクスの奴、何かに気付いたのか魔素の塊を凝視していたら?!


「こ、これは……」とか呟きやがった。


 これはって何ですか? そういうのやめてよ。気になるじゃないですか!


 続きをプリーズ!


 ゼクスめ、後ずさりからの猛ダッシュ! 帰っちゃいましたよ。


 ツーヅキーヲプリーーズ!


 声、出ませんけど。


 顔が上がらないから、必死に目ん玉を持ち上げて魔素を見ました。


 一つの大きな塊になってます。なる程、この形はあれだ。速攻、逃げるわけだ。十中八九これ!


 ……ドラゴンだ。はは。


 色が次第に濃くなってきます。黒い霧が、だんだん黒い塊に集約されて晴れてきました。騎士団のいる場所が、うっすら見えます。


 ゼクスの逃げる背中が見えます。何て言い訳するのでしょうかね?


 騎士団の皆さん、慌ててるみたいですね。そりゃあ慌てるか。撤退ですね。感じます。勇者が10人いても、このドラゴンには適わないでしょう。


 御手洗会長が、こっちを指差して何か言ってますね。早く、避難して下さい……。


     *     *


 俺が何とかしますから!!!


     *     *


 もっとゆっくり、じっくり選びたかったんですけどね。


 それに、このまま職業未定のままでも、頑張ってレベルを50とか100まで上げると片桐先輩に追いつくんじゃないかとも思ってたんだけど……。


 でも、今やらないと死んじゃいます。ひと種の職業じゃ駄目です。人外になります。そのまま人の意識でいられるのか? 戻って来られるのか? 心配だけど俺、やります。


 絶対、会長達を守ります!


 人でなくなっても……。


     *     *


 ステータスオープン。ピロリン。


・名前/タロー ヤマダ

・種族/人族

・年齢/16

・職業/未定Lv.28─┐

  【ドラゴン】に決定しますか?

・生命力 120/120230

・攻撃力 160/160307

・防御力 100/10192

・魔力 60/60115


ーースキル


・竜魔法Lv.1(new)

・生活魔法


ーーエクストラスキル


・アイテムボックスLv.1

・ブレス(new)

・自己アピール(new)


     *     *


 スーーー。ハーーー。ウッシ!


ダーイケェッーテェーイ!!行けー!!」


 ………………。


 ………。


 …。


・職業/未定Lv.28─┐

  【ドラゴン】に決定しますか?


     *     *


「……決定」


 ピロリン。


 【ドラゴン】に決定されました。なお【ドラゴン】の就業時間は180秒。クールタイムは24時間です。


 あっ、そういう感じなんですね!

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