第26話 技術の深遠

 キリリ!


 俺は、内心の気持ちを封印し、表情筋を引き締めた。


 今まで騎士団で訓練したことを、あれこれ試したいと思います。


 【フェイント】


 それは、行っちゃうぞ。行っちゃうぞ。行かなーい。と敵を小馬鹿こばかにする技です!


 違いますか?


 一歩、体重を乗せて踏み込む。中段狙い! オークが半身になって剣でガード。


 しかし、俺行かない。かわりに体重を抜いて左回り。完全に裏をかいた形。


 オーク、ヤバいって顔してます。軸がぶれてます。そこで、ガラ空きの脇腹に一撃!


 しなーい。完全にバランス崩しました。俺、何にも攻撃してないのに、オーク転びそうです! アハハハハ。


     *     *


 【見切り】


 それは、敵の攻撃が当たるぞ。当たるぞ。当たらなーい。と敵を馬鹿にする技です。


 違いましたか?


 オークの体勢が戻るのを待ってます。そんな体勢じゃ攻撃どころじゃないからね。


 怒ってるけど、俺おまえに未だ攻撃してないよ?!


 さあ彼は、どういう攻撃をするのでしょう。楽しみです。


 うーん、単調です。実に単調です。力任せにブンブンと振り回すだけです。


 迫力は、あります。迫力だけです。でも、少し前の低レベルの時ならビビってすくんでいたでしょうね。


 オークのリーチが大体分かりました。もう少し近くで避けてみましょう。


 これくらいか? 顔面の30センチくらい前を剣が通り過ぎました。風圧が凄いです。つまり剣筋が悪いって事です。本当に力だけなんだな、こいつ!


 オークがあれ? って顔してます。当たったと思ったようですね。


 ウフフ、もう少し近づいてみましょう。これで10センチくらい。


 オークがパニクってます。きっと剣が身体をすり抜けて見えてますよ! 分かりますよ、びっくりするよね。


 だって、フェイントも見切りも全部、俺が騎士団でやられた事ばかりだもの。


 なる程、やる方はこんな感じなのですね。これは楽しい。騎士団の連中が俺とやりたがるはずだ!


 おっと、調子に乗りすぎた。後ろが狭い。角に詰められました。


 おい、なに得意な顔してんだよ! 偶然だろ! なに、自分で追い詰めた気になってるんだよ!


 でも油断は禁物! ここは反省しておこう。常に360度、警戒を怠るな! 訓練で何度も注意された事だ。


 これは命がチップの危険なゲームなのだから。


     *     *


 もう一つやりたい事があります。


 両手剣を左手だけで持って、片手をフリーにする。人差し指を立てて、クルクル手首を回す。そこから……。


「フゥァイヤァァー、ボゥォォールゥァー!」

 

 終わりの方の「ルゥァーー!」は、舌を巻いてます。苦手な人もいるかも? ですけど俺は余裕です。


 ジェスチャーも魔法名も要らないのだか、敢えて大袈裟にやりました。


     *     *


 【フェイント、魔法編】


 指先から5センチ程前に、ソフトボール大の火球が出来ました。それがオークに向かって飛んで行く。あぁ俺、ここまで出来るようになったんだなぁ。感無量!


 スピードはそこそこです。まあ、シュバッ! って感じじゃありませんが。ヒュヒューンってところですかね……フラフラ……いや、ここはヒューンって事で!


 火魔法は、レベル1なんですよ。お金さえあればスクロール買えるんですけど、俺に使える予算の問題らしいです。


 まっ。今はあくまで火魔法を使った【フェイント】ということで!


 当たりましたけど、ぶっとい腕でカバーされました。ダメージ殆どありません。


 ショボ言うな!


 良いのです、これで。念のため顔面狙って、も1回「フゥァイヤァァー、ボゥォォールゥァー!」


 面倒くさっ。次から普通に言おう。


 またガードされました。だけど、明らかに嫌がってます。人型の魔物は、なまじっか賢いおかげで顔面の攻撃を嫌がるそうです。さあ、フェイントの種を蒔きしました。


 ここから剣の攻撃にファイヤーボールを……混ぜませーん!


「ファイヤー……」


 ビクッ?!


「ファッ」


 ビクッ?!


「フ」


 ビクッ?!


 ギャハハハハ。オモシレー!


     *     *


「タロー。真面目にやりなさい」


 聖女ミタライに叱られました。これは、ご褒美ですね。

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