第22話 願い
翌朝早く、馬車で出発。目的地ダラコスには夕方近くに到着した。
同行は近衛騎士団のカイン小隊長とその第1分隊10名だ。
ダンジョンに隣接した街ダラコスは、まさしく冒険者の街だった。
「こういうのを見たかったんだ。やたら武器を持った人が多い。それから獣人さんのケモミミやドワーフ! ドワーフだよね? 小さいおじさんかもしれないけれど。エルフは……んー、見あたらない」
「ヒョッヒョッヒョッ。エルフは滅多に人里には降りて来ませんのですよ。勇者様」
「いや俺、勇者じゃ無いんですよ」
「いんや、いんや」
馭者は毎回ウルソさんだ。俺は馬車に乗る度に馭者席に乗っている。時々、手綱も握らせてもらっていた。
もし王国離れて3人で馬車移動する時、こういう役目は俺だからね。今のうち練習しとかないと!
後ろのキャビン内では御手洗会長が窓から外をキョロキョロ見ている。街に入った途端、馭者席に上ろうとして片桐先輩に止められたのだ。
そして宿に着くなり……。
「冒険者ギルドに案内しなさい」とか言い出した。
近衛騎士団が同行しているのだ。ダンジョンに入る必要な手続きなど、済んでいる。はっきり言って用事など無い。
「そんな事、分かっているわよ。酒場に行きたいの!」
テンプレを、ご所望でしたか! その願い叶えましょう。
* *
俺は聖女様の要望に応えるため、カイン隊長らと綿密な打ち合わせと、下準備に奔走した。
そもそも、この街の冒険者ギルド内に酒場は無い。
「それは何かの間違いでは! 酒場は付きものでしょう」
付きものでは、ないと思います。
ギルドの周辺には何軒か食堂や酒場が隣接している。御手洗会長には、その中の一軒に行くことにして納得してもらった。
テンプレ劇場の始まりです。
* *
我ら聖女パーティー【生徒会48】の3人は、ギルド御用達、大衆酒場【黄昏の晩餐亭】にやって来た。
ギィ~ィ! ガヤガヤ、ざわざわ。
「うっ、酒臭いわね!」
ここは酒場です。
店内の荒くれ共が一斉にギヌロと、こちらを見た。ちょっと怖いんですけど!
ちなみに店内に居る荒くれの皆様は、全員大銅貨1枚と料理1品及びエール1杯で雇われた冒険者の方々です。特に人相の好ましく無い方を中心に選ばせて頂いております。当然、店内貸切。スポンサーは近衛騎士団に御座います。
あろう事か皆様はビールを希望されましたが、ここは異世界的にエール一択でお願いしました。値段も安いし。
ビールまでとは! 先輩勇者、さすがです。
元の雑踏に戻ります。ざわざわ。
ここからです。ここからテンプレ劇場、始まりです!
* *
「会長、あのテーブルが空いてます」
俺はサッと右手を中央付近の混んでいるくせに、何故か空いてるテーブルを指した。
もちろん、他のテーブルから丁度良いくらいに離れています。たまたま2、3人が暴れても大丈夫でしょう。
俺が先導して御手洗会長をテーブルに案内します。会長ってば、途中のテーブルに近づく度に気持ち速度を緩めて、小声で……。
「こいつかしら……。来ないの?あいつかしら……」とかボソボソ呟いて、目がキラキラ。
すでに担当は決まってます。しばし、お待ち下さい。
椅子を引いて座って頂いた時、御手洗会長のちょっと尖った唇が見えました。ガッカリですか? ご安心下さい、とびきりの
メニューを御手洗会長に手渡しました。これが合図です。
* *
「うぃ~。見かけない
台本通りです!(棒)ですけど。
顔が傷だらけです。でかいです。日本で、こんなのが歩いていたら、通報されます! のレベルです。見た瞬間に、この人しかいないと確信しました。
御手洗会長、そんなに嬉しそうな顔しないで下さい。出番は未だです。
次は片桐先輩の台詞です。片桐先輩。おーい片桐先輩!
「先輩! 片桐先輩、ここで何かすることは?」
「あっ」
あっ、じゃねーし!
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