第13話 平原を行く

 翌朝7時。俺達は声のでかいカイン隊長の近衛騎士団第2小隊の護衛付きで王都を出発した。


 向かう先は魔物が出る森、アズグール大森林監視砦だ。名称通りの砦なんだろう。


 王都から馬車で、のんびり揺られて北に2時間。やっと半分というところか。


 見渡す限り草原。そこに放牧の羊が何百頭単位で移動している。人口密度の低そうな国だなぁ。


 王国は俺達のために貴族用の馬車を出してくれた。良い機会だと、御手洗会長が片桐先輩に異世界についてレクチャーしている。俺にとっては当たり前の知識を聞かされる事に耐えられなくなり一人、馭者席に避難した。


 今、馬車内は御手洗会長と片桐先輩2人の移動生徒会室だ。俺が出ていく時、勇者カタギリが嬉しそうな顔をしたのは見なかった事にしてあげよう。


     *     *


 馭者はウルソさんという年配のおじさんだった。


 馭者席は思っていたより高い位置にあり、前からの風が気持ち良い。いくつかの集落を過ぎてしばらくすると大きな森が見えた。もうこの先には集落が無いそうだ。


「あれがアズグール大森林ですか?」


「いんやいんや勇者様。アズグールは、こげなもんでは、ねぇですよ。まあ、ここも魔物の沸く森では、あるですがね!」


 この人の良さそうなおじさん馭者、ウルソさんは俺の事も勇者と呼ぶ。


「俺、勇者じゃないんですよ」


 何度訂正しても「いんやいんや」と、笑って返される。


 ウルソさんの、ぽつぽつ話す内容は、かなり参考になった。


 この世界の魔物は何処にでもいるわけでなく、魔素の沸く森やダンジョンにしかいないそうだ。魔物も魔素が無いと長く存在できないという事らしい。


「ほぅら、勇者様。アズグール大森林が見えましたですよ」


 大きな森が切れた、その彼方に何処までも続くかと思われる、果てしない森が見えた。


 ああ、ホントに大森林なんだ。


     *     *


 騎馬が一騎、前方から近づいて来る。斥候の近衛騎士のようだ。


「カイン隊長、この先にコボルトの群れがいます!」


 コボルトだって!? ファンタジー世界のくせに初めての魔物だぜ!


「コボルトですって?!」


 馭者席の後ろの小窓がカタリと開いて、御手洗会長が声をかけてきた。


     *     *


 カイン隊長や分隊長さん達、それと一緒に付いてきた神官長さんらが話し合っている。


「どれ位の規模だ?」


「12匹は確認しております。15は越えないかと」


 俺達は3人は馬車を降りて、隊長達の話し合いに加わった。カイン隊長がこちらをチラリと見たが何も言われなかった。


 魔物の種類、規模、この場所を考えると、このまま無視しても不都合ではないらしい。しかし、この道はアズグール大森林に向かうだけでなく隣国や近隣の街に通じている。多くはないが商人や旅人がいるのだ。


 討伐に決まった!


     *     *


 近衛騎士団第2小隊といっても、今回同行したのは半分の2分隊、約20名程度。1分隊10名と小隊長カイン隊長が討伐組。残りは馬車の警備になった。


 相手はコボルト十数匹匹。充分すぎる戦力だろう。


 俺達3人も留守番を言い渡された。


「嫌よ!」


「「御手洗会長ぉ~?!」」

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