第10話 伝説

 出ますよね。やっぱり俺の事!


「はっきり言って、その子供は聖女殿や勇者殿とはステータスが違いすぎましてな。一緒の訓練は無理なのだ」


 子供、子供って! 先輩達と1つしか違わないのですが。


「そこで、この子供は兵舎に移して兵隊の訓練か、もしくは従者の教育を……」


「駄目よ! 拒否します。彼の待遇は、私たちと同じものを要求します。訓練も。これは譲れません、決定事項ですわ!」


 バーンハイム子爵は、会長の剣幕に少し驚いたようだ。


 御手洗会長……俺は何があっても、貴方に絶対ついて行きます!


「困りましたな。本当に足手まといにしかならんのだが。もし、ワシがその子に危害を加えるような事を心配しているなら杞憂ですぞ。そんな子供の一人や二人、大した負担ではありませんからな。それよりも、聖女殿らの訓練の妨げになるのが困るのだ」


 まあ俺の事など、どうでもいいということなのでしょう。


「バーンハイム子爵様は、何か誤解しているようですわ」


 あっ?! 何気に名称を変えましたね。先程まで呼び捨てしてたのに。さすがは生徒会長。この若さで交渉上手だ。


「このが可哀相だとか同郷だからというような理由で一緒の訓練をさせるわけでは、ありませんの」


 あっ! 俺の呼称も変えましたね、酷い。


「どういう事ですかな?」


「日本には、巻き込まれたら大抵チートという伝説がありますの」


「巻き込まれたらチートの伝説……ですかな?」


「確証はありませんが、彼は高い確率で、それにあたります。私たち以上の勇者になるかもしれません」


「まさか……」


「確約は、できませんが」


 そこでスッと片桐先輩が御手洗会長に近づいた。


「会長、巻き込まれたらチートなんて本当にあるのですか?」


「あるわけないでしょう。世の中そんなに甘くないわ。成功例が一件あったら、その100万倍の失敗例があるものよ。ここはラノベの世界じゃないの。現実なのよ!」


 ガーン。今それ言う? 俺の唯一の心の拠り所が……。御手洗会長が言うと信憑性が増して落ち込みそうです。


「では、彼らがタロー君を追い出してくれるのなら丁度良いのでは? 例のシナリオを実行しなくても……」


 驚いた顔で会長が片桐先輩を見た。


「お黙りなさい! 低ステータスのままタローちゃんを追い出したら直ぐにでも死んでしまいますわ」


「あっ……?!」


 言われことに気がついて、シュンとする片桐先輩。そんなに、あの小芝居が嫌か!


 ……嫌なんだろうな。


 でも職業変更が上手くいくか分からない状態で今、一人になんかなりたくない。というか俺を殺す気か、勇者バカギリ!


     *     *


 バーンハイム子爵は腕を組み、しばらく目を閉じた。


 それから人の良いおじさんの仮面を少し外して冷徹な口調で告げた。


「訓練で死んでも責任は、とれませんぞ」


わたくしがいますのよ」


 早めの昼食後、最初の訓練が始まった。

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