密室の取り調べ
店長からマスターキーを受け取り、岩科がいる部屋の前まで来た。
俺と矢上は指や腕の関節を鳴らして、扉を一気に開ける。
「なっ! えっ?」
「なんだよ! テメェ等!」
予想はしていたが、実際見ると人の行為ほど気持ちの悪いものは無い。
俺は店長を呼び、矢上は戸惑っている嬢にバスタオルを渡した。
「ちょ、なんなんです?」
「すいません。お騒がせしちゃって」
精一杯の営業スマイルで対応し、嬢を店長に引き渡す。矢上は呆然としている岩科某の顔面に、服を投げつけた。
俺は扉を閉め、鍵もかける。
「服を着てください。同性同士でも、丸出しはよくないですよ」
矢上も笑顔で話すが、岩科は顔を真っ赤にして怒り出す。
「ふざけんな! テメェ等俺を誰だと――」
「一般市民虐めていい気になってるチンピラ」
「三下如きが偉そうなこと言ってんじゃねぇ」
怒鳴り声に被せる様にして、矢上が貶し俺もそれに続いた。
「この野郎!」
岩科は人の話も聞かないで殴り掛かるが、矢上はそれをスウェーの要領で躱し、俺はそのへなちょこパンチを左手で受け止めた。
「へっ?」
岩科は素っ頓狂な声を出した。まさか、これが本気のパンチだというのなら笑わせてくれる。
「利き手じゃない方なんだけどな」
受け止めた拳の甲の辺り。指の骨の間に自分の手の指を置き、力いっぱい押し込む。そのあたりにはつぼがあり、やられたら痛みが走る。
岩科は叫び声を挙げ、その場にへたり込んだ。
「俺達はISSだ」
「先程の行為は、公務執行妨害ですね。前歴あるなら……執行猶予は付きませんよ」
公務執行妨害は公務員の仕事を邪魔したら、漏れなく貰える前歴だ。公務員、警察や自衛隊や役所の仕事を邪魔しているのだから、そこら辺の奴等が思っているより、重い罪になる。
「
物理的にも精神的にも社会的にも逃げ道を潰し、俺達は笑顔で岩科の事を見た。
岩科は矢上の言葉で、自身が置かれた状況を理解出来なかったのか丸出しのまま逃げようとする。
丁寧に俺はドアの前から退いてやったが、鍵がかかっているのを分からないのか必死こいてノブを回そうとしている。
「ほんと、馬鹿だな」
俺はマッシュルームヘアを掴み、横に振り投げた。岩科の体は壁にぶつかる。
「人の話を聞かない男はモテませんよ」
「モテる奴は風俗に行かない気がする」
岩科は頭を押さえ、怯えた視線で俺達を見つめた。
「この状況をなんて言うか知ってるか? ……八方塞がりって言うんだ」
「私達の話を、素直に聞いた方がいいですよ」
しゃがみ込んで岩科と視線を合わせようとする。その時、岩科が自分の荷物に手を突っ込んでいるのが見えた。
俺はその手を押さえ、荷物から引き出す。
岩科の手に握られていたのは、ベレッタ92Fだった。
「銃刀法違反」
矢上が冷酷に言い放つ。俺はベレッタをもぎ取り腰に挿した。
そして、手加減無しの拳を顔面に入れる。
「往生際が悪いぞ。……それに、バンテージ無いから後が面倒になる」
「“親父にもぶたれた事がない”とでも言いますか?」
ようやく観念したのか、岩科はガックリと項垂れた。
服を着るよう命じて、それを見届け正座するよう促した。
「なに、さっきは手荒な真似をしてしまったが、ここからの話は問題の平和的解決に繋がる。だから、正直に答えてほしい」
「は、はい」
ようやく、マトモな返事が聞けた気がする。
「今度、チームが全員集合するのはいつだ?」
「もしくは、銃の隠し場所を」
視線が俺達から外れた。矢上は苦笑して、俺は彼の顎を掴んだ。
「こっちを見ろ」
顔の筋肉を総動員して、怒りの表情を作りあげる。
「……まぁまぁ、彼もそうしては喋れないでしょう。手を放してあげてください」
古典的な取り調べ術の一つ、
悪い警官が被疑者を罵詈雑言で怖がらせ、それを良い警官が窘めて被疑者の肩を持つ。
追い詰められた人間というのは、少し優しくされただけで落ちてしまうものだ。
被疑者は優しく諭す良い警官に好意の様なモノを抱き、コロッと証言を話してしまう。
これまで自分に対して粗暴な態度を取ってきた男と、生真面目そうで丁寧な物腰と口調で接してくれた男。
俺が岩科をいたぶり、矢上が優しくすればいずれ話すだろう。
だが。
「話します話します! もう、勘弁してください!」
俺が顎から手を放した瞬間、床に額を擦りつけて謝罪の言葉を吐き出した。
これまでしばいたのが効いたのだろう。
「じゃあ、また聞きますけど……今度集まるのはいつです?」
優しく矢上が聞いた。
「あ、あ……明日です」
「どこに?」
「府中市にある、スレイヤーっていうクラブです」
「いつ?」
「それは……分かりません」
「何をしに?」
「……そ、それは………………」
口ごもる岩科。俺は大仰に息を吐き出し、威圧感を前面に出していく。
「言えよ。今度は玉行くぞ」
男だけにしか伝わらない痛み。なんだかんだ、これが一番痛い。
「立川……」
「あ?」
「立川駐屯地を……襲いに……」
俺は怒りで血の気が引いていくのを感じた。
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