人の性(さが)
調査係のオフィスに彼女はいた。
いつもより忙しめの周りと同じ様にパソコンのキーを叩き、誰かに指示を出している。
その様子を見て、なんとなく声を掛けるのをはばかっていたら、彼女の方が俺を見つけた。
書類を持って来た部下らしき女の子に謝り、シルヴィアは俺の方に来た。
「どうしたの? 今、忙しいんだけど」
責めるような口調ではなく、どこかふざけているようなおどけた口調。俺が来ることが分かっていたようにも感じる。
「抜けられるか?」
その証拠に、この状況下では無茶なお願いに。
「いいよ」
こうも軽く返す事なんてしない。
すぐそばの休憩室に誘い、話を始めた。
「……FBIのオークリーさんから聞いたよ。警察の裏事情知ってたけど、教えなかったの」
「怒ってる?」
「いんや。むしろ、納得してる。“餅は餅屋”で“適材適所”だろ」
「そう。私は捜査のプロで、アカヌマは」
「戦闘のプロだ」
「……警察の事知ってたら、どうしてた?」
「キレて、睨みつけてたろうな。もしかすると、状況が悪化してたかも」
あの時、マリアは警官達を睨みつけていた。俺も同じ様な事をしただろう。
真実を教えられ、あの場に臨場しようものなら眼付きの悪い人間達がわらわらバンから出て来たに違いない。
そうすれば、FBIの作戦は潰れてしまう。
それを避ける為、班長達と話し合って決めた。
「“求めるは、事件の完全解決”だと、オークリーさんに言われたよ。……俺達が邪魔しちゃ意味ないもんな」
「けどその代わり、本気のメンバーを選んだみたいのよ。メリッサ班長は」
シルヴィアは観葉植物を弄るのを止め、俺に背を向ける。
「話したい事、言い終わった?」
「おう。俺はただ、答え合わせをしたかっただけだからな」
肩をすくめ、俺もエレベーターホールに向かう。
だが。
「シルヴィア!」
別れ際にもう一つ言うことにした。
「頑張れよ!」
彼女は手を振る。
「言われなくても!」
エレベーターの扉が閉じた。
同じ組織に属していても、違う者は違う。
それは当たり前だ。
だが、それを受け入れ尊敬していく。簡単そうだが、意外と難しい。
意見や思想が自分と異なっていたり、干渉しあえば誰とでも争いになるのが人間の性だ。
それでも、熱い思いを持った人間を目の前にしてもまだ、相手と争いたいとは俺は思わない。
俺は俺なりに、戦うのだ。
そして、俺に出来ない事は出来る奴に任せる。
なんでもかんでも物事をこなせるほど、俺は器用ではないから。
仲間達の顔を思い浮かべる。
――熱い思いを持った人間達だ。
テキサスから始まった波紋は全米にゆっくりとだが、確実に広がって行った。
警察の腐敗と反社会的勢力との癒着。
アメリカ建国から警察組織の誕生以来、前代未聞の不祥事は世間に大きな衝撃が走り大きく震えた。
パトカーや制服を巧みに使って、人を攫い組織に売り金を得る。
そんな、沼の底に溜まったヘドロみたいな事実が行っていたのが一部でも、世に出たのだから当たり前だろう。
六年前の事件だけでなく、何十年も前から警察の一部で行われていた小遣い稼ぎにメスが入ったのだ。
警察は上から下まで毎日大騒ぎで、テレビや新聞はセンセーショナルな見出しを載せて、市民にばらまいているのだから、確実に人々の記憶には残るに違いない。
全米の警察はFBIとISS両方による捜査が行われ、信用回復に努めるよう警察のトップから命令が下された。
恐ろしい事に、人身売買でメスを入れたはずが別の事件が次々に発覚するといったことまで起こる始末。
それでも、関わった人間達はめげなかった。
隠された真実を見つけ出し、露わにする。
彼らは確かに、戦っているのだ。
――――しかし。
意見や思想が自分と異なっていたり、干渉しあえば誰とでも争いになるのが人間の性だ。
異なるものは何か。
干渉しあうものは何か。
それは、本人達にしか分からない事なのだ。
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