第14話 初対面
お兄ちゃんの手を引いて、家を出たのは良いもののやはり学校に近づくにつれてどうしても心が不安になり、歩みが遅くなる。
そして、やっぱり私の兄は何も言わずそっと私の手と兄の手を強く結んでくれる。
こういうところが卑怯なのだ。ずるいのだ。かっこいいのだ。
隣に並んだ兄の顔を見ながら私はどうしようもなくだらしなく顔を緩ませてしまう。
これで意識しないは無理だよ?お兄ちゃん。全部、全部かっこいいお兄ちゃんが悪いんだよ?
だから私は、絶対に負けないの。私は急に出てきたモブになんて負けない。私は主人公だから。キリッ。
「なに、顏七変化させているんだよ。表情筋を鍛えているのか?少しだけ、気持ち悪いよ」
「可愛い妹に気持ち悪いとはなにさ。いいもん、私が気持ち悪くて変人に見えるなら、隣で歩いているお兄ちゃんも一緒に変な人に見られるから」
「そこまで分かっているなら止めてよ!?僕、別に変人じゃないし」
「え……」
「そこで言葉に詰まるのは流石に悪意がありすぎると思うんだ。違うよね、大丈夫だよね!?」
「え……。う、うん、大丈夫だよ。お兄。自信もって」
「僕の妹がSに目覚めた件について」
「私が妹ならハリウッド化なんて余裕だね」
「え……」
「もう、その乗りさっきもした」
「ははっ」
「ふふっ」
やっぱりお兄とこうやってじゃれ合うのは楽しいし、今の会話でさえもお兄の優しさを感じて嬉しくなる。
だっていつもより少しだけ大袈裟に反応してくれてるから。多分私の不安を少しでもなくそうとしてくれているんだと思う。
ふぇぇぇ。お兄の優しさが染みて脳が解けちゃうよ。
「あ、愁先輩、おはようございます!!」
と幸せを噛みしめることができる時間も束の間…っは。どこのどいつだ。私のお兄を雌声で誘惑するのは。声がした後ろを向きキッっと睨みつける。
「あ、おはよう、赤羽さん」
「ふふっ。おはようございます」
ジーっと見つめる。髪は茶髪のショートボブでどこか溌剌とした印象を与える女の子。
日の光が当たり、赤毛にも見えなくはない。
ふぅーん。この子が私の将来の旦那様を誘惑したメスガキなのね。許せないわ。ええ、今、私はとっても怒っているわ。
いつもの冷静沈着なキャラが崩壊するぐらいには。
「え、えぇーっと、その私にずっと殺気を送り続けているその子は誰なんですか?愁先輩」
「僕の妹の美亜だ。美亜、犬みたいに唸ってないで、挨拶をしなさい」
「ワンワン」
「犬語で挨拶してとは言ってないんだけれど。……はぁ。美亜、帰ったら一緒に僕の部屋でゲームする?」
「え、良いの!?久しぶりにしたい」
「じゃあ、分かるよね?」
「………美亜」
「私は、赤羽美羽。よろしくね。…。…そっか、この子が」
「ん?何か言った?」
「なんでもありませんよ。先輩」
小さく呟いた声が私には聞こえた。
どうやら、私のことを知っているらしい。それならば話は早い。どこまで私の事を知っているか知らないけど、このメスガキと話さなきゃならないことがあるから私はこんなところに来たんだし…ちょうどいいね。探す手間が省けた。
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