第8話 いい訳。

「お兄……私は、今すごく怒っています。すごーく、すごーく怒っているんです」

「はい、すいません」


 帰ってきて、ドアを開けてすぐ美亜にリビングに連行されて今の状況に至る。


「本当に、心配してたんだよ?ちゃんと分かっているんですか?」

「はい、ごめんなさい」


 今までにも何度かこのやり取りをしてきた。LIME送ろうと思っても、仕事中だし、忙しいから無理だから、なんて理由にはならない。


 美亜を心配させたのは僕だし、安請負をしなければいい話だ。


「もう、お兄はダメ、何も分かってない」

「ほんとに、すいません」

「だから、私はプリンを所望します」

「分かりました、お姫様」


 当たり前だな。それくらいなら全然いいし、プリン以外もすでに買ってきているし。


「それと、一緒に晩御飯を食べることも所望します」

「分かりました。喜んで付き添います」


 僕と一緒に食べるために待っていてくれて、食べるとき少しでも気を使わないように配慮してくれる妹に涙が出そうだ。


「それと、次から私にあーんしてプリンを食べさせることをしょ、所望します」

「喜んでお引き受けします」


 まぁ、そうだよな。これくらいの事をしたんだから妹にあーんするくらい普通の事だよな。……ん?


「それから、私はお兄ちゃんと一緒にくっついてごろごろする権利をいただきます」

「はい……」


 くっついての限度があるしな。それくらいならまぁ…いいかな。


「最後に、一緒に寝る権利もいただきます」

「えっと……ん?」

「ごちそうさまでした」

「勝手に会話を終了させないで、ウェイト、ウェイト」


 それは、ちょっとダメだと思うなぁ。せっかく、妹離れ、兄離れの一歩を踏み出したばかりなのに。


「お兄は、ちゃんと反省しているんだよね?」

「はい、反省してます」

「なら、良いよね?」

「……」

「良いよね、お兄?」


 僕に段々と近づいてくる美亜。…まぁ、いいか。今日だけは前みたいに戻って。僕が悪いし。


「はぁ…分かったよ」

「わ、ちょ、雑だよぉ、お兄」


 近づいてきた美亜の頭を乱雑になで、でも美亜は嫌そうな顔はしない。むしろ…頬が赤いような。



「じゃあ、夜ご飯食べよっか」

「うん、ホントにごめんね」


 二人で夜ご飯の準備をして、仲良く食べ、約束通り美亜にプリンを口に運ぶ。


「ん、おいしいー」

「普通のプリンだけれどね」

「もー、そんな事ないよ。お兄が買ってきてくれたんだから」


 そんなやり取りをしつつ、美亜は終始笑顔で。


 お風呂に入り、部屋に自室に戻り、もう夜も遅いので部屋の電気を暗くして二人でゴロゴロする。


 前のように、美亜が僕の腕の中でごろごろして、僕のもう一歩の手を持って開いたり閉じたりして遊んでいる。


「お兄は、バイトなんてしなくていいのに」

「えぇーそれはダメかなぁ」

「私が一生養ってあげるし、一生面倒見るし」

「それじゃ、僕がダメ人間になっちゃうよ」

「むぅー」


 暗くてよく分からないけれど、不満そうなのは手に取るように分かるのが妹の可愛いところであり長所でもある。


 この話も何度もしたな。僕がバイトをしてからずっと。


 美亜を寂しがらせているのは良くないとは思うんだけれど、何より美亜のためだからな。できるだけ貯金していて損はないだろうし。


「でも、ありがとな。心配してくれて。怖かったよな。大丈夫。僕は何処にもいかないから」

「うん。…ありがと。…ぃ…」


 開いていた僕の手をぎゅっと握る美亜。なんだか愛おしくて抱きしめてしまう。


 まぁ……明日から妹離れ、兄離れは頑張ればいいか。






 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る