第7話 バイト

「ありがと、沙紀」

「ふぇ?何が?」


 朝学校に来て、まず、最初にこいつに言わなきゃいけない言葉だ。


 首を傾げて、本当に分かっていないような顔をする。


「僕の背中を押してくれたことだよ。美亜に僕が好きな人いるって伝えてくれたんだろ?」

「え、あ、あぁー。そうだね。その通りだよ」


 何故かしどろもどろなのは気になったけれど、感謝はしているので言わなければという使命感に駆られてお礼はした。


「あのさ、それで、どうなったの?」

「それが、効果が覿面で………」

「ふむふむ」


 僕が朝あったことを話すと、何故だか、笑い堪えているような顔をされる。何故だ。


「う、うん。い、良いんじゃないかな。美亜ちゃんも多分心を入れ替えてんだよ、ぷははっ」

「そうなのかな?」

「きっとそうだよ」


 なんか、こいつを見ているとそんな気がしなくなってきた。とは、言ってもなんで笑っているか分からないから怒りようもないし。


「まぁ、その調子で頑張ってね」

「お、おう。頑張るけれど」


 大丈夫かな、不安だ。




 それから、いつも通り授業を受け、そのままバイトに直行。先に来ていた一つ年上の女子高の先輩、白雪聖さんが休憩室に居た。


「おはようございます。愁さん。あれ?違いました。こんにちわです」

「そうですね、こんにちわです。白雪さん」


 ニコッと微笑んでくれて、授業で疲れた体を一瞬で吹き飛ばしてくれる。


 白雪聖さん。


 普段はおっとりしているし、ドジッ娘だけれど、頭は良いし、なんといってもこの人可愛いんだよな。

 

 女子高じゃなければ、告白が殺到していてもおかしくないくらいに。


 結構時給が良いのでここで働こうとしたのに、まさかこんな人がいるだなんて思いしもしなかった。


「どうしたんですか?」


 ゆったりとした声になんだかこちらも乗せられそうになるが、留まる。


「何でも、ないです。それじゃあ、そろそろ、時間なので入りましょう」

「そうですね」

 

 二人で仕事場に出る。


 お客の注文聞いて、運んで、片付けして、お皿洗ったり、レジしたりするお仕事ってなーんだ。正解は、ファミレスの店員でした。


 フロアでは僕たちの前のシフトに入っていた人がいるので、声をかけて交代して…一度、顔を叩いて、仕事モードに切り替える。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「二名です」

「こちらの席へ、どうぞ」


 それからも、仕事を熱心にして、次のバイトの人が出られなくなったという緊急の報告を得て、そのあとも仕事に入ったりして、あれやこれやとしていたら帰宅する時間がかなり遅くなってしまっていた。


 もう十時だ。


 僕が次も残ると言ったら、白雪さんも残ると言ってくれて、断ったが、どうしてもと言う彼女の熱意に負けて一緒に仕事をしていたが、流石に悪い。


 それと…忙しくて晩御飯を作ってくれた美亜にメッセージ送るの忘れたから、今頃ご立腹だろう。


 早く帰らなければ。










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