第22話 ニャマ達の休日3 買い食いは楽しいけれど外野がうるさいですね
ニャマ達三人は、トトリア北側の平民が多く住む区画にある下町露店通りへと足を運んだ。
普段いる。奴隷ギルドや冒険者ギルドが有るのが中央で、王宮や貴族街があるのは南側だ。
下町の道は、まだアスファルトではなく石畳で引かれている。トトリアについてから普段は、中央のギルド付近から外に出るので街中で石畳を踏むことは余り無かったので、ニャマには歩く足の感覚が新鮮に思えた。
「なんだか、町で踏む石畳って思ったより歩きにくいね」
「そうですわね。アスファルトになれると石畳のごつごつした感触は足裏に来ますわね」
「でも、外じゃ土や石の道だよ」
「外じゃ当たり前だから注意しながら歩くわね。ウッカリ躓かないようにね」
「あ、分った注意するよ」
下町露店通りに入ると、美味しそうな食べ物の香りが漂ってくる。見えるだけでも数店の露店や屋台が開かれていて、食事を買いに来る客が屋台に並んでいて、その周りのベンチには美味そうに食べている客がいる。ベンチの隣には、まだ容量に余裕があるゴミ箱が設置されており、衛生管理もそれなりに出来ている様だ。
「わぁ 美味しそうな匂いが一杯あるね。どれを買おうか悩んじゃうね」
「うんうん。いっぱい買っても食べきれないから注意しないと」
「そうですわね。わたくしは、余り屋台物は食べておりませんが、いい香りが致しますわ」
着飾った三人組が、露店通りに入ると、路地の脇から幾らかの鋭い目線が飛んでくるが、彼女達の青い首輪を確認すると、舌打ちをうって別の女性を物色し始めた。
彼等も奴隷ギルドに喧嘩を売るつもりは無いのだ。逆に下手に攫ったりすると、首輪の位置情報で攫った奴隷の位置がバレて奴隷ギルドの暗部が派遣されるのだ。
ニャマはそんな視線に気が付きながらも、自分たちに来ないのではという事で無視をしつつ
「ん~何がいいかな。野兎の串焼きは置いておいて、他には……」
「ねぇ。 あれなんて良さそうじゃない? 良い匂いだし」
サリーナが示した屋台には、この世界の文字で「やきいも」と書かれている屋台だ。
何かの葉で包まれている物を売っている様で数人程が並んでいる。見た目では美味しさは解らないが、芋の焼ける良い匂いがしているので、サリーナは勧めたのであろう。
「そうですわね。見た目だけなら食べたくはありませんが、香りは良いですし並んでいる人もおりますから、どんな味なのか興味がありますわ」
「わたしも興味あるから、みんなで食べよう」
そうして、やきいもの屋台に並ぶ三人。暫くして、三人の順番になる。
「らっしゃい。三個で良いのかい?」
屋台のおじさんが、三人で行動していたのを知っていたのでそう聞いている。
「はい、三個でよろしですわ」
「じゃあ、銅貨六枚だ」
リシェルが代表して銅貨六枚払うと、緑の葉っぱに包まれた物を渡された。手に取ると結構熱い。
「熱いですわね。二人とも早く取って下さいまし」
「はい。わ、あちち」
「ふ~熱かったですわ。ところでおじさま、わたし達この食べ物初めてなのですがどう食べればいいのでしょうか?」
「お? 初めてだったか。それならそれの片側にある串を抜いて、葉を捲ると芋が出て来るから、そのまま齧るか、皮をむいて食べてくれ」
「ありがとうございますですわ」
そうして屋台から少し離れたベンチに腰掛けて、二人におしさんから聞いた食べ方を教えながら葉を捲ると強烈な芋の臭いと湯気と共に茶色い物体が出てきた。
「茶色いですか、熱そうですね。確か皮をむいて食べるのでしたね」
茶色い皮を剥ぐと、中から黄金色の果肉が露わになる。恐る恐る一口食べると口の中に甘味が広がり、芋の熱さが身体を芯から温めてくれるようだ。
「これは美味しいですわね」
「うん。凄く暖かくなるよ。もうすぐ冬だから、凄く美味しくなりそうよ」
「でも、熱いから夏場には食べたくないかもね」
「確かに夏場には、食べれそうにないですわね」
ほくほくと甘いやきいもをゆっくりと食べきった三人は、次の露店を探す。
「こうして露店を見ていると、野兎関連多いよね」
兎の串焼きから始まり、スープや干し肉、ハンバーガーなど多岐に渡っていた。
中には、うさやきというタコ焼きのタコの代わりに野兎の肉が入ったものも売られていた。
「あとは、おにぎりの露店も多いね。具の種類が沢山あるから、どれにしようか迷っちゃうね」
「迷いますわね。まあ、その種類の中にも野兎の肉は入っていますわね」
「野兎の肉は良く取れるもの」
「わたし達も良く狩ったものね。あ! あれなんてどうかな」
そうして、三人は色々な露店の品物を見て回り、又、屋台で軽食を摘まみながら楽しんでいた。
十分楽しんで、寮に戻ろうと露店通りから広場に出ると人だかりが出来ていた。
「あれ? 何か人だかりが出来てるよ?」
「本当ですわね。何が在るのでしょうか?」
近づいて行くと、何か大きな声で叫んでいる声が聞こえる。
「何か演説しているみたいだよ? 何の話をしているのかな」
次第に声が明瞭になっていくと
「我々は、召喚勇者からの恩恵を受けてはならないのだ! 我々は我々の力のみで文化や技術を築きあげなければならない! 今の召喚勇者の人数で十分だから、ジオル王国で行われる勇者召喚儀式に反対をしなければならないのだ!」
拡声器を使って演説している男は必死な表情で捲し立てているが、周りの観衆からは白い目で見られていた。
「なんで、今更、便利になった物を捨てなきゃならないんだよ」
「そうよね。冬場に冷たい水何てもう触りたくないわ」
「というか、あいつが使っている拡声器も勇者の恩恵じゃねーかよ」
「最近、ジオル王国で過激派だったかが暴れてるって話だよな」
「確か『断罪の牙』だな。傭兵団やら野盗を吸収して国家問わない勢力になってるらしいぜ」
断罪の牙は召喚勇者が広めた文化や発明品を破壊する為に行動する犯罪集団である。
現在でも召喚勇者が生存している時代でもあるので、暗殺を企てることもあるが、今まで成功した記録はない。
「じゃあ、あいつもその一味って訳か?」
「いや、多分あいつらは、『神聖セレスティア教』の神官だろうな。所謂穏健派って奴らだ。大方、勇者断罪の牙の暴れっぷりのとばっちりを受けて肩身が狭くなっているのだろう」
神聖セレスティア教は、召喚勇者しか持たない魔の宝珠を生命の宝珠に浄化する力を、この世界の人も持てるような魔装具の開発や人材捜索をメインにしている集団だ。
実際に神託でも「勇者を召喚しているのは浄化の力が必要だからで、この世界で完結できるなら召喚は必要なくなるのでその時までは勇者と共に世界を守れ」と言われているのだ。
神聖セレスティア教でも勇者の力をどこまで借りても良いのか? という所で派閥が出来てしまっている。
今演説している神官は、勇者は浄化の力さえ貸してくれれば良い、それ以外の事は口を出すな。という考え方をしている派閥の神官のようだ。
断罪の牙と神聖セレスティア教とは、お互い接点は無いのだが世間では過激派穏健派と呼ばれていて、神聖セレスティア教はいい迷惑である。
三人も例にもれず、冷めた目で神官の演説を聞き流していた。そしてニャマが思い出したかのように。
「ジオル王国で勇者召喚があるのね。何時ぐらいになるのかな」
「新聞では春に行うらしいと書かれていたわね。というかニャマ、新聞くらい読みなさいな。奴隷ギルドと冒険者ギルドの受付の脇に置いてありますわよ」
「よく読むの忘れるし、見出しだけ読んでるもの」
「ニャマ、よいですか。わたくし達は派遣奴隷なのですよ。世間の情報を掴み、あやゆる仕事が出来るようにするものですわ」
「リシェルそれは敷居が高すぎないかな」
「心構えと言うものですわ。どんなことにも対応できるようにするべきですわ!」
燃える瞳をしながら熱弁を振るっているリシェルを見て、この人は何処を目指しているのだろうとニャマは思った。
将来『断罪の牙』と『神聖セレスティア教』と関わることになるのだが、今のニャマとリシェルはその二つの組織にまったく関心は無かった。
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