閑話 カリナの場合

 カリナ視点でお送りします。

 短編風にしております。

 時系列がかなり先の話も含まれていますのでご注意ください。


------------------------------------------------------------------------------------------------



 私はカリナ、16歳の人間族です。

 村では酷い目にあったので、皆は切り替えようと言ってくれますが、私はまだ上手く切り替えることが出来ません。

 悔しくて、情けなくて涙が出てしまいます。うじうじしたくないのですが、もう暫く時間が掛かりそうです。

 


 デルボッチ商会で派遣奴隷になって、初日の技能測定の結果、冒険者か侍女の適正有とのことでしたので、私は侍女の道を選ぶことにしました。

 ニャマやサリーナと一緒に冒険者になるのも良いかと思ったのですが、今は余り男性の方に近づきたくありません。

 侍女であれば、お相手は令嬢だそうなので男性と会うことも少なくなりましょう。そんな思惑もあり、私は侍女の訓練を始めました。


 それから二週間、みっちりと侍女の訓練を受けました。元々適性がある為、自分でも吃驚するくらいに、侍女の仕事を覚えるのは楽でした。服の着せ方、紅茶の入れ方、脇に控える態度等、色々な事を先輩方に教えていただきました。

 その先輩方の都合で、私は毎日中央のお屋敷で訓練を受けます。


「は~。適性があると、ここまで早く覚えるなんてね。羨ましいですわ」


 そう言ってくれるのは先輩奴隷の元男爵令嬢ヤーレ様。彼女は貴族令嬢に従える侍女の仕事をしていたそうなのですが、その令嬢が隣国の学園に留学するそうで、その間は、お休みだそうです。

 結構我儘な令嬢らしく、同行をしなくてよかったと言っていました。

 お休み中のお金は大丈夫かと思ったけれど、貴族が最低限のお金はレンタル料として出しているそうです。


 それから、ニャマ達やリシェル様とも、気遣ってくれているのか良く合います。ニャマ達からは狩りの話を、リシェル様には侍女や貴族の話をしてもらっています。

 毎日、訓練で充実した日々を送っていくと、徐々に村での出来事を過去に出来るようになってきました。


 それから二週間後、私の侍女としての仕事が決まりました。


 ピース子爵令嬢の侍女のお仕事です。名前はフラン9歳。子爵の第二夫人の長女で、上に第一夫人が産んだ年の離れた16歳の長女シズルと18歳の長男のカイが居るそうです。

 仕事前の話ですと、フランは転婆な令嬢らしく侍女を困らせているそうです。しかし、例を挙げてもらうと村で育った私には軽いいたずら程度だと感じました。今までの侍女は貴族令嬢だったそうなので、その影響もありそうです。


 ピース子爵邸に着いて直ぐに娘の侍女になることから、ピース子爵閣下と面談することになってしまった。

 しかし、応接室に入るとピース子爵閣下の表情は疲れているように見えるわ。何か私に不安要素でもあるのかと思ったのですが、話を伺うと逆でフラン様の方に、問題があると見ている様でした。

 フラン様は貴族令嬢の勉強が嫌いらしく、逃げだしたり、落ち着かない様子で家庭教師役の人も困り果てているとのこと。今までの侍女もいたずらで参ってしまい何度も交代しているらしい。

 そこで、村人の侍女候補の私を奴隷ギルドで見つけて、試しに派遣したそうです。


 ピース子爵閣下はこのまま勉強しないままでは、フランを10歳時に開催されるお披露目会に出席させられないので、何とか勉強するように仕向けてくれないかと頼まれました。

 正直、無理難題と思いますが、私の前にもいろいろ試したそうですから、恐らく藁おも掴む気持ちなのでしょう。雇われたのですから出来る限り頑張らせていただきます。



「あなたが、新しい侍女ね! あはは。あなたは一体何日持つのかな?」


 フラン様の部屋の扉を開けると、挨拶する間もなくフラン様は腕を組んでふんぞり返っていました。


「はい、これからフラン様にお仕えするカリナともうします」


「む? とりあえず、次の家庭教師の勉強はさぼるから、家庭教師が来たら追い返して」


「お断りしますわ。フラン様、勉強を致しましょう」


「なぁ! 侍女の癖に私の言うこと聞きなさいよ。でも残念ね、私はここから動かないわ」


「そうですか、それならば私にも考えがありますわ」


 はっきり言って言語道断の行動をするけど、ある程度の事は不問にすると言っているので、強引にでも連れて行きましょう。


「え? 何? 何でこっちに来るの? きゃ!」


 私はフラン様にゆっくりと近づき、狼狽えるフラン様をそのまま抱き上げた。いわいる『お姫様だっこ』と言うものです。

 フラン様は思ったより軽く、ぱたぱたと暴れるフラン様は可愛かったですね。

 

「では、家庭教師の所に行きましょうか」


「まって、放して! こんな格好い恥ずかしい! わかった! 行くから降ろしてぇ」


 あっさりと前言を撤回したフラン様を降ろすと、悔し涙をためながら


「これで勝ったとは思わないでね。絶対にあなたをギャフンと言わせてやるんだからぁ」


 走って部屋から出ていてしまったフラン様を追うと、きちんと家庭教師の所に行って勉強を始めていた。

 この点から、フラン様は性根は良い子なのだと感じたわね。何か不安か不満があってああなっているのだろうと察したわ。


 その後も、フラン様のいたずらやサボりは続いたけれど、村での義母がしたいびりに比べたら可愛い物でした。

 フラン様は何をしても全然平気な私に対して対抗心を持っている様で、何とかして負かしてやろうとその行動は大胆になっていきました。


 ですがある日、フラン様はサボる為に屋敷の何処に隠れても見つける私を欺くために、屋敷の外に逃げ出してしまいました。

 流石に私も慌てて、護身用のカバーの付いた手斧をスカートの中に隠してフラン様を探しに行きました。

 何とか探し当てた時、フラン様はゴロツキどもに囲まれて危機一髪の状況でしたので、問答無用でゴロツキどもを叩きのめしてしまいました。侍女の勉強の合間にニャマとリシェルに護身術教えて貰っていて良かったわ。

 ですが、後で分かったのですが、実はゴロツキどもは冒険者で、身なりのいい子が歩いていたので心配して屋敷に帰そうと声をかけていただけだったようでした。私も焦っていた様で後で謝りにいたったら、逆にパーティに誘われたので、丁重にお断りしました。


 その一件以降、フラン様はいたずらやサボることはしなくなりました。ただ、二人きりの時は、普通の口調で会話して欲しいと頼まれましたけどね。

 私はフラン様を更正させた功績とフラン様の希望で、派遣期間は延長されました。

 結局この派遣は、私の返済金を払いきるまで続くことになります。





 魔法の適正が有ったフラン様が12歳になると、魔法学院に15歳まで通うことになりました。私はフラン様のお付き侍女として同行することになりました。


 その学園でも色々な事や事件が起きましたが、それは別の機会に致しましょうか。





 ですが、この件だけは語らせてもらいます。返済金を払いきったのは、フラン様が13歳の時、魔法学院に在学中の時でした。

 その際に、このままフランさんと別れるのも忍びなく、正式に侍女としてピース子爵家に従えることになりました。

 何か褒美がもらえるそうなので、子爵家の裏庭に菜園が欲しい、農家は私の家族を迎えたいとダメもとで願ったらあっさり了承を貰えたので、両親を家に迎えることになったのです。

 そして私は、村に帰って来ました。昔と変わらない農村風景は、懐かしさと共に彼等との思い出もよみがえりました。

 その時ようやく、フラン様との生活の中で、村での仕打ちが過去のものになっていると理解しました。

 我が家に帰って、両親にその旨を伝えると喜んでくれて、すぐに王都に向かう準備を始めてくれました。これから王都で家族と一緒に暮らせると喜びながら村を回っていると、ディスと再会してしまった。

 向うは私の現状を村に戻ったリリさんから聞いて知っているのか、へらへらと笑いながら


「カリナ、王都ってどんなところなんだ? 色んなものがあるんだろ? 楽しみだよ」


「は?」


 どうやら、ディスはまだ私の夫と思っているらしい。一緒に王都に行くと思っている様だ。

 リリさんの様に私を待って独り身で居たらな考えたかもしれないけれど、父から聞いて、ディスはメナと再婚し子供も生まれているのだ。もはや家族でもなんでもない他人だ。


「はぁ。メナと子供は如何するのよ」


「メナとは、母の命令で無理やり結婚させられたんだ。だから王都でやり直そう」


「もう無理よ。メナとお幸せにね」


「な! 亭主の言う事が聞けないのか!」


 激高したディルは私に掴み掛ろうとするが、あっさりと私に投げ飛ばされる。背中から地面に落ちるディルを見下ろしながら


「はぁ ……なんでこんなのと結婚したのかしら? それじゃあディル、永遠にさようなら」


 背中を地面に打ち付けられて声の出ないディルをしり目にそう言い放ちその場から離れた。

 余談だけど、両親の畑と家は、両親と暮らしている夫婦にわたるのだが、次に家を貰えるのがディル夫妻だったのだけど、私の両親の強い反対で次の夫妻に渡ったそうだ。








 それから、時は過ぎて行って……

 私はピース子爵家の屋敷のテラスで藍色のドレスを着て紅茶を飲んでいる。


「お母様、今日はお父様が帰って来る日ですわ。お迎えの準備を致しましょう」


 私の今年で11歳になる一人娘が私の元に駆け寄ってくる。来年は魔法学院に行く予定なので侍女の選定は重要だ。


「そうね。ララフェ様と一緒にお待ちしましょうか」


「うん」


 あれから色々あり、ピース子爵家嫡男のカイ様と結婚し第二夫人としてピース子爵家の一員となった。

 貴族の結婚に対する一般常識として、第一夫人は貴族から幼い時に婚約者が出来るのが殆どで、第二夫人以降は好きに選べるのが普通です。なので、第一夫人とそれ以降の夫人が仲が悪いことが多いのです。

 ですが、第一夫人のララフェ様は、幼いころからの許嫁でフラン様と同い年で親友の間柄だったわ。

 魔法学院では、フラン様の巻き起こした騒動に良く二人で巻き込まれていたので、結婚する前からララフェ様との仲は良かった。そのまま良い仲で居てくれて良かったわ。




 娘に手を引かれて夫を出迎えるために歩いているうちに、今の幸せを噛みしめていた。


---------------------------------------------後書き--------------------------------------------

  カリナとフランの魔法学園での話だけで一作品作れそうですね

  『カリナの侍女奮闘記』とかで短編として出しても面白いかも?


 最後のエピソードは、この物語が終わった後の話になります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る