第19話 オーガの肉は食べられないらしいのね

 オーガの素材は、犬歯や眼球、睾丸などで、肉は固く一般的には食べられていない。だが、一部の地域では、肉を柔らかくして食べる方法があり、その地方の珍味として人気だそうだ。


 一体で取れる素材の量は多くはないが、それでも四体分となると量が多く、ニャマの[収納]の出番となった。オーガの使っていたと思われる武器は棍棒ばかりで使い物にならずかさばるので、その場に置いて来た。いずれ動物や魔獣たちの腹の中に納まるだろう。

 ただ、魔獣の臭いが付いたので、狩人にはあの横穴はもう使えないことを伝えなければならないだろう。


 横穴からサテナ村へと帰るまで、索敵警戒しながら帰ったが、新たにオーガや魔獣が出てくることは無かった。


「ふう、素材が思ったより多くて、かなり美味しい依頼だったね」


 村が見えてきて安心したのか、ガイルがそう言葉を漏らした


「そりゃオーガ四体分だからなぁ。この依頼が終わったら結構贅沢出来るな」


「うむ。魔法球が買えそうだ」


「あたしもにゃ。新しい武器買うのにゃ」


 四人は思ったより収入が多かったことで、報酬の使い道を話し合ているのを聞きながら後ろをついて行った。

 どれだけ素材が増えようが、ニャマには銅貨一枚も分け前が無いからだ。

 これは、派遣冒険者になるときに明記されていて、あくまで助っ人としてパーティに入る為でもあるし、既に助っ人料でギルドからお金を貰っているからでもある。


 村に入ると入口に村長と狩人が出迎えてくれていた。村長は不安と期待の入り混じったかををしながら


「冒険者の皆さまお疲れさまでした。ところで、オーガは居たのでしょうか?」


「オーガは討伐しました。オーガの影響で森に動物が少なくなっていますが、時期に元に戻ると思いますよ」


「おお、それは有難い、大したもてなしは出来ませんが、酒宴を開きましょう」


「ありがとう。これでオーガに怯えなくて済むよ。本当にありがとう」


 村長は礼を言って、近くに居た村民に何か指示をしている。どうやら、酒宴の準備をするように言っている様だ。言われた村民は走って村の奥に消えていった。

 狩人はオーガがよほど怖かったのかキースに何度も礼を言っていた。


「酒宴の準備が出来るまでは、家でお寛ぎ下さい」


「そうですね。俺達も疲れていますので、少し休ませてもらいます」


 そうして、あてがわれた家に戻ったキース達は休みながら、今回の依頼を振り返った。


「何とかなったが、四匹全員が万全だったら逃げ帰るしかなかったな」


「だにゃ。でもあのオーガ達、なんで怪我していたのかにゃ」


 ミリムがテーブルに座りながら今回の依頼の疑問を口にした。


「他の強い魔獣に負けたのかな?」


「それだと、すでにその魔獣がこの村に来て暴れているだろうな」


「そうですよね。殺し合ったなら食料を人数分探すなんてことしないだろうし」


「ん~。なら、はぐれらしく集落から追い出されたのか?」


「わざわざ、大怪我させてから追い出すのか?」


「権力闘争に敗れたとかあるけれど、魔獣ですしね」


「魔獣が権力に執着とか、ないない」


「ですよねー」


 その後は戦闘中の連携や立ち回りの話や、ニャマの戦闘内容の指摘などが行われているうちに、酒宴の準備が出来たとの連絡があった。


 キース達は、相談した可能性を全てギルドに報告したが、結局誰も最後の権力闘争に敗れたが正解だと気が付くことは無かった。


 村中央付近の広場で開催する酒宴会場に行くと、テーブルがたくさん置かれておりその上には料理がたくさん置かれていた。

 村人達に酒が振舞われていて、既に飲む始めている人も居た。

 このような酒宴は、来た人から始めるのが普通の様だ。

 村長は、キース達が会場に来て酒の入ったグラスを持っているのを確認したようで、創った壇上に上がって挨拶を始めた


「皆聞いてくれ! 村を脅かしたオーガは、今日討伐された! 村を救った英雄たちに乾杯!」


「乾杯!」


 村長はジョッキを掲げ乾杯の音頭を取ると村人たちも掲げ酒宴が始まった。


「にゃ~。ニャマちゃん飲んでるかにゃ~」


「ちょっと、ミリムさん飲み過ぎでは? 明日大丈夫です?」


 ニャマが、明日には村を出る予定なので控えめに飲んでいると、すっかり出来上がったミリムがしなだれかかってきた。


「にゃ? だいじょうぶ、らいじょうぶだにゃ~。二日酔い何てならないにゃ~」


「大丈夫に見えないですね。しっかりしてくださいよ」


「にゃ~? ニャマちゃんは、ちゃんと語尾にニャを付けるにゃ」


「やですよ。にゃって特徴としてはわかりやすいですが」


「む~にゃ お酒入ったら言ってくれると思ったのににゃ、それに尻尾で表現しきれて無いにゃ」


「尻尾で感情わかるって、わたしは意図的に動かさないようにしてますからね」


「だめにゃ。だめにゃ。猫人族は可愛くあざとくしなきゃダメなのにゃ」


「ストイックな人もいてもいいでしょ?」


「む~。かたいにゃぁ。帰り道でニャマちゃんをもっと柔らかくしてやるにゃ」


「はぁ。お手柔らかにお願いしますよ」


「じぇったいに、あざと可愛く仕立てるんだからにゃ~」


 言うだけ言って、ミリムはふらふらとハロルドの所に行き絡んでいた。


「ミリムさんは、絡み酒なのですね」


「ニャマも災難だったな。まあ、トトリアには猫人族が少ないからなぁ。同じ種族と出会えて嬉しいんだろう」


 ミリムがハロルドに絡みに行った後、すぐにキースがミリムのフォローを入れた。

(キースさん絶対ミリムさんが離れるまで退避してたでしょ)

 そう思いながらも


「あ~確かにトトリアには猫人族少ないですね。犬人族や狸人族はそこそこみかけますね。何か理由が有るので?」


「いや、単に猫人族が多くいる地域からは外れているからだと思うぞ、大陸西方なら、猫人族と兎人族が多いらしいからな」


「何で偏ったのでしょうね。不思議です」


「あ~、その種族の国家がある所に集中しているらしいぞ。同じ種族の王の所に集まりやすいってな」


「なるほど、人間族と違って私達の種族はまだ数は少ないですからね」


「人間族は増えやすいからなぁ」


 そうなのだ、異種交配は人間族のみが持っているので増えやすいのだ。

 また、この世界には種族ハーフは存在しない。父母の種族が違う場合、何方かの種族で生まれることになる。

 この二点から、人間族が増える早さは他の種族を圧倒する。


「わたしの所も、兄も姉も人間族だったわね」


「そうか、ミリムの話は気にするな。だけどまあ、ニャマなら可愛くなるのだろうがな」


「キースさん迄、わたしはそこまで可愛くないですよ」


「そう思っているのは、当人だけだと思いますよ」


 キースとニャマの会話に、ガイルが割り込んできた。


「ちょっと、ガイルさん迄」


「そうです。ヒック。ニャマさんは性に関しては無防備すぎますね。ウック。もう少し恥じらいを持った方が良いですよ。ヒック」


「ええ! ていうかガイルさんも相当酔ってますね」


「確かにな。ガイル少しペース落せ」


「大丈夫ですよ。まだ呂律は回ってませんし。ミリムよりましですよ」


 酔って顔を赤くしながら、大丈夫という酒飲みほど危ない。


「はぁ。あいつ等、明日大丈夫だろうな」


「さあ? 自己責任でしょうし、もう知りませんね。キースさん、わたしって本当に無防備なのですか?」


 キースは、(そんな質問をしてくるのが無防備だろう)と思いつつも


「行動は無防備ではないと思うぞ、あとは質問する相手を考えた方が良いぞ」


「ふむ? わかりました。気を付けておきますね」


 酒宴は遅くまで続いたが、主賓のキース一行は明日帰る為、渋る二人を押さえて早めに酒宴を切り上げて就寝した。

 翌日の朝。案の定ミリムとガイルは青い顔で馬車の前にいた。


「うぇ、気持ち悪い」


「にゃ~。馬車きつそうですにゃ~」


「お前ら依頼が上手くいったからってはしゃぎ過ぎだ」


「すみません」


「ごめんにゃ~」


「とりあえず。馬車の中で休んでいろ」


「はい。はいにゃ」


 そうして、キース一行は馬車に乗りトトリアへ帰るのであった。


 帰りも整備された街道を馬車で移動するだけなので問題なくトトリアへ戻ることが出来た。

 そして、冒険者ギルドで依頼の報告をした後、キース達と別れて五日ぶりの奴隷ギルド寮に帰って来た。


「住めば都って言うけれど、村の生活よりよっぽど快適なのよね」


 寮の方を見たニャマは実家に帰って来たかのような気持ちになった。なぜならば、私の帰りに気が付いたサリーナとリシェルが玄関まで迎えに来てくれたからだ。

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