第18話 オーガをぶん殴るのは大変ですね

 キース達は警戒しながら歩みを続けると、肉の腐ったような異臭が経ち込めてきた。

 

「ん、これは」


 辺りを探索すると、食い荒らされた鹿の死体を見つけた。もう、他の動物や魔獣も食べないであろう。


「にゃ? 食べかけにゃ? う~ん、傷跡から食べていたのは狼系だろうけどにゃ、狼なら全部食べつくしてしまうにゃ」


「あ~。ということは、食事中に邪魔が入って狼が逃げたってことね。食事中の狼が逃げるって相当な威圧が無いと無理ですね」


 ミリムとニャマはそれぞれ思ったことを口にする。


「ここまで異臭がするのに、他の魔獣が食いつかないのも原因はオーガか?」


「そうかもにゃ。オーガ一匹でここまで生態系が狂うのはおかしいかもにゃ」


「う~ん。オーガは一匹ではないって事なのか。それだと少し僕たちだけではきつくないですか」


「だなぁ。が、情報は必要だ、危なそうなら撤退して応援を呼ぼう」


「……了解した」


 そんなやり取りのあと、更に警戒して進んでいくと、前方にオーガが一匹確認できた。地図で見ると、問題の横穴へは、大体五分程度かかりそうな距離だ。

 オーガはゆっくりと歩きながら横穴の方角へ向かっているが、様子がおかしい。

 怪我をしているのか、左足を引きずっているように見える。

 一番に発見したミリムは小声で


「正面、オーガがいるにゃ。でも足を引きずって様子が変にゃ」


「オーガは気が付いているか?」


「まだ気が付いていない様にゃ」


「ハロルド、不意打ち行けるか?」


「まかせろ」


「よし、戦闘始めるぞ、ニャマはハロルドの近くて援護をお願いする」


「わかったわ」


 キース、ガイル、ミリムの三人は音を立てずに接近していく。オーガは脚が遅いため気が付けれずに近づくことが出来た。


「いくぞ。[転倒]」


 風属性魔法[転倒]は文字通り、相手の足をを風の魔力で引っかけて転倒させる魔法だが、体重の重い者や、四足歩行の動物には効き目がうすい。

 しかし、今回のオーガは、足に怪我を負っていたため風の魔力であっさりと転倒してしまった。


「いまだ!」


 転倒して、倒れているオーガにキース達は攻撃を仕掛ける。普段は届かない頭も転倒した今では安易に届く。

 オーガは、頭に攻撃を仕掛けているキースの攻撃を耐えるために両腕で顔を塞ぎながら起とうとするが、それは、ミリムとガイルが起たないように邪魔をしている。

 ニャマは何時でも[水弾]が打てるように手をオーガの方向に向けている。


「このままいけば楽に倒せるぞ! 一気に畳みかけよう」


「おう」


 さらに、オーガへの攻撃は激しくなる。耐えられなくなったのかオーガは


「〇✖〇△□✖△〇✖△□〇〇△□✖✖△〇✖□!!!」


 なにか、知らない言葉を大声で叫んだ。


「もう少しだ!」


 そして、オーガの腕の防御が緩くなった瞬間を狙って、キースがオーガの喉元に剣を突きさすことに成功した。

 オーガは喉元を貫かれると、全身の力を緩めた。もう力が残っていないのだ。

 そしてキースは突き刺したまま横に払うとオーガは首が半分千切れた状態になり、びくびくと痙攣したあと動かなくなった。


「よし! 仕留めたな」


 そうキースが言った時、ニャマはこちらに向かってくる気配を感じたので、その方奥を指差しながら。


「まって、何かこっちに向かってきてる」


「な! やっぱり複数匹いたのか! 全員警戒」


 全員が武器を指差した方向に構えると、その方向からオーガが一匹現れた。そのオーガは所々傷がついているが、動きには支障は無さそうだ。


「やっぱりも一匹いたね[水弾]」


 ニャマはオーガが現れた瞬間に[水弾]を顔めがけて放ったが、オーガが持っていた棍棒に阻まれてしまった。

 しかし、こうやって魔法を武器で防いでいる間は、オーガは防御に回らなくてはいけなくなる。


「ああ、連戦だが余力はある[風斬]」


 ニャマの少し後に合せるようにハロルドが[風斬]を放つが、これも防がれてしまう。


「ガアァァァァァァァ」


 オーガは倒れたオーガを見てから雄たけびを上げて憤怒の表情で睨みつけている。

 前衛の三人は、キースとガイルがオーガの正面に位置し、ミリムはオーガの死角に回り込もうとしている。

 キースとガイルの位置取りはキースが前でガイルはキースの右後ろに居る。キースが捌きガイルが棍棒を空振りした隙を狙う形だ。


 万全のオーガは強かった。ニャマとハロルドが魔法でチクチクと嫌がらせをし、キースはオーガのヘイトを稼ぎ攻撃を捌くことに専念している。ガイルとミリムも隙を突いて攻撃しているが決め手に欠けるが、徐々に傷を増やして、オーガの体力を削っていった。


「ぐっ! わぁ!」


 そして、均衡が崩れたのはこちら側だった。キースが捌き損ねて棍棒の横薙ぎを受けてしまたのだ。盾で受けはしたものの、体躯の差で吹き飛ばされるキース。たたらを踏んで倒れる事だけは耐えたが、その時には既にオーガは右手を振り上げて、キースめがけて棍棒を振り降ろそうとしていた。


「間に合って![水弾]」


 ニャマの放った[水弾]は、振り降ろそうとしていたオーガの耳に当たり、それに気を取られ動作を遅らせたことで、キースは躱すことが出来た。


「ニャマ、助かった」


 キースに止めを刺そうと振り降ろしたのに躱されてしまったオーガは、大きな隙を作ることになる。

 側面からはガイルが、後ろからミリムが、それぞれ技能技[二連撃]と[二刀撃]を使い深い傷を負わすことに成功する。

 オーガは限界を感じたのかふらふらと三歩程後ろに下がると身を翻して逃げようとしたが。


「逃がさん。[転倒]」


 ハロルドがタイミングよく[転倒]を使いオーガを転ばすことに成功する。倒され四つん這いになっているオーガの頸椎にミリムがとどめの一撃を入れた。


「やったにゃ! っと他に来てないかにゃ」


「うん。オーガの気配はなさそうね」


「一匹は怪我を負っていたけど、オーガ二連戦ってきつかったよ」


 ガイルがほっとしたように呟く


「だな。更に追加は勘弁だな。ミリム。もうこちらに来る気配はないんだな」


「うん、ないにゃ」


「なら、このまま横穴に向かおう二匹で終わりだと思いたいがな」


「居たらどうするのですか?」


 ニャマがキースに尋ねる


「さすがに今日はこれ以上は無理だ、引き返すか応援を呼ぶかは数次第だな」




 結論から言うと、キース一行が横穴に着くとオーガが二匹横穴で寝ていた。

 寝ているオーガは、損傷が惨く欠損部位も在り起てる様子ではなかった。


「なるほど、こいつ等にも食わせるために四匹分狩っていたのか」


「オーガ四匹分だと、この森なら生態系壊すレベルになってしまいますね」


「始末しよう。その方がマシだ」


「あ~食料を集める者も居ないからにゃ、このまま餓死するかにゃ。魔獣や動物は怖くて死ぬまで来ないかにゃ」


「そういう事だ、魔獣だが楽にさせてやろう」


 そうして、横穴の二匹に止めを刺した後、倒したオーガの素材をはぎ取って村へと戻った。

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