第16話 冒険者と一緒に遠出に行きますね

 ニャマとオルフェの模擬戦から暫くたって、肌寒くなり冬が訪れる頃。ニャマにある依頼が舞い込んできた。


 それまでの間は、三人で狩りをしたり、各自指定依頼をこなしていっていた。

 また、ニャマは、オルフェとの模擬戦で自分の体力が足りないことに気が付いて、毎朝、ちゃっかり拝借した練習用の両手剣で素振りと、筋力トレーニングをするのが日課になった。

 二日目にはサリーナがその次の日からはリシェルも日課に参加するようになった様だ。


 冒険者ギルドの等級は、初(下)級、中級、上級に分かれていて、各級に上中下の段階が与えられている。

 それとは別に特級という等級がある。この等級は全ての依頼を受けることが出来る等級だ。勿論、実力に見合わない依頼は、ギルド職員から止めておく様に注意を受ける。

 特級冒険者に名を連ねる冒険者の実力は、貴族の道楽から英雄までピンからキリまである。

 派遣冒険者の指名依頼は、この特級冒険者と同等で等級関係なしに指名される。



「今回の依頼は中級冒険者からの依頼ですね。内容ははぐれオーガの討伐です」



 ゴブリン、オーク、オーガといった、集落を作る人型の魔獣は人類にとってかなり危険な魔獣だ。

 特に危険な特性は、生命の宝珠の結界があまり効かない事だ。能力は落ちるが結界内に入ることが出来、また、生命の宝珠を汚して魔の宝珠に変える力も持つ者もいるらしい。

 基本は魔の領域に集落を作って生活しているが、はぐれたり追い出された者が人類の生活圏に迷い込むことがある。


「はい、わかりました。じゃあ今日は二人でね」


「あ、すみません。依頼なのですが、五日ほどの予定となっております」


「五日! じゃあ遠出するんだ」


「はい、移動に二日かかる所ですね。詳しい内容は冒険者ギルドの方で聞いてね」


「はーい、じゃあ、行ってくるね」


「はい行ってらっしゃい」


 冒険者ギルドに向かう道中で、サリーナが


「遠出はニャマが初めてだね。早く帰って来てね」


「うん、もちろん。それに知らない場所に行くの楽しみだしね」


「そうですわね。最近はダンジョンか近場の狩場位でしたから、わたくしにも早く遠出の依頼来てほしいですわ」


「私も~。いいなぁ。一緒に行けたらなぁ」


「わたし達は派遣奴隷だから選べないよね」


「そうですわね。何時か奴隷で無くなったら一緒に冒険したものですわ」


「そうねその時は皆一緒で」


「うん」


 三人はそう言って笑い合った。自分たちが奴隷としていかに恵まれているか知らないままに。



 冒険者ギルドで二人と別れたニャマは、受付嬢に「少し時間が押しているので、すぐに東門前の馬車に行ってください。詳細は依頼者が聞いて下さい」言われ。急いで東門に向かった。


 東門前には、乗合馬車が何台か停まっており、その中に冒険者らしき者たちを確認すると、其方へと向かった。

 向うも、ニャマに気が付いたらしく手を振っている冒険者は、ニャマの顔見知りだった。


「おはようございます、キースさん。今回の依頼はキースさん達ですか?」


「ああ、そうだ。よろしく頼む」


 そういって、右手を差し出してきたので、手を取り握手をする。


「あ、来たね。そろそろ乗合馬車が出発する時間だからギリギリだったよ」


「ガイルさんもおはようございます」


「あ~ニャマちゃん来たにゃ。今回はよろしくにゃ♪」


「ミリムさんもおはようございます」


「む~。ニャマちゃんも語尾ににゃをつけるべきだにゃ。猫人族の習慣にゃ」


「えええ、駄目ですよ。恥ずかしいです。それにそんな習慣聞いたことないですね」


「む~。ニャマちゃんの意地悪にゃ」


「……行くぞ」


「ハロルドさんもおはようございます。そして皆さん今回はよろしく願いしますね」


「ああよろしく。時間だから出発しようこっちだ」


 ニャマは、キース達の後を追い乗合馬車に乗り込んだ。馬車の中にはキース一行以外に二人程乗っていた。一人はお爺さん、もう一人は都市の平民風のいで立ちの男だった。




 どうやら少し待っていてもらっていたのか、ニャマ達が乗り込んだらすぐに馬車は動きだした。


「あら、本当に待たせちゃったのかな?」


「いいや、定刻通りだな。遅れたら昼の便にするつもりだったから、問題ないよ」


「そうですか、よかったです」


「それよりも、荷物少ないが準備大丈夫なのか?」


「ええ、何時遠出の依頼が来てもいい様に必要な物は[収納]に入れていましたから問題ないです」


「お! ニャマは[収納]が使えるのか」


「はい、友達が冒険者するなら絶対必要になると勧められたの」


「でも高くなかったか?」


「それは、装備より優先したからですね」


 今のニャマの装備は、最初に貰った短剣以外には武器は無く、防具は私服に自由に出来るお金で買った皮の胸当てと、膝と肘を防護する皮のガードを付けているだけだ。

 今度はしっかりとした両手剣が欲しいなとは思ってはいるが、そんなことを考えていると


「なるほどなぁ。俺達は装備の方を優先しているからまだ買えないんだよなぁ」


「装備は高いですからね」


「ああ、装備を重視すると幾ら金が有ってもらっても足りなくなる」


 キースとそんなやり取りを射ていると


「そんな事よりもにゃ。ニャマちゃん最初見た時は痩せすぎてたのににゃ、今はしっかり太っているにゃ。ちゃんと食べれているのにゃ」


「太ってるって、元に戻ったと言ってくださいよう」


 ニャマが売られてた当初は、食べるものが無く痩せ細っていたが、この頃になると体重も不作前に戻っていて、魅力的な身体つきになっている。


「でもよかったにゃ。痩せすぎで直ぐに居なくなると心配してたのにゃ」


「それは…… ありがとうね」


「だから、ニャマちゃんと一緒で嬉しいのにゃ。猫人族の常識を一杯教えるのにゃ」


「いえ。ミリムさんの常識はちょっと違うような」


「そんなことにゃいにゃ! 地元じゃそうだったのにゃ」


「地元には、猫人族はミリムの家族しかいなかったけどね」


 幼馴染らしいガイルが、呆れたように言っている。


「ガイルはいらんこと言うにゃ~」


「あはは」


 キース達の冒険者パーティの仲はそれほど悪くない様だ。黙っているハロルドも嫌そうな顔はしていない。

 暫く馬車の中で雑談が続いていく内に、今日の宿泊予定の町に着いた。

 宿での夕食の後、ニャマは今回の依頼の事を詳しく聞くことにした。


「キース、すみません。そろそろ依頼の事教えて欲しいのですが」


「ん? 受付で聞いていないのか」


「時間がぎりぎりだったのでオーガを討伐する位しか聞いていません」


「そうか、じゃあまずは依頼の来た経緯からだな」


「お願いします」


「依頼場所は、トトリアから馬車で東へ二日ほどの距離にあるサテナ村だ。そこの狩人が森の中でオーガを見たという連絡があったらしい」


「じゃあ、本当に居るか分からないのね」


「いなけりゃそれで良いけどな、村に行って狩人から話を聞いてから探索、見つかれば一日で終わるな」


「あら? 五日ほどって言っていたのは最短で五日だったのね」


「なんか問題あるのか?」


「無いわ。だとすると森の中で野営することも在るのかしら?」


「ん、まあそこまではしないと思って良いよ。夜になる前に村に戻る」


「わかったわ。準備していたもので大丈夫そうで安心したわ」


「後は、オーガとの戦い方については何かあるか?」


「ん~。一応、皮膚が硬くて中々刃が通らないと聞きました」


「だな、だから急所への攻撃が重要となってくるのだが、オーガの成体は平均2.5m程と背が高い。顔の急所へは短剣では届かないから他の急所を狙った方が良いな」


「ふむふむ」


「あとは、ハロルドの魔法攻撃が有効だから、魔法を打ちやすいようにしてやるのも必要かな」


「あ、魔法攻撃が有効なら、わたし[水弾]使えますから、魔法で援護の方が良いかな?」


「お、そうだな、前衛は俺達三人に任せて貰ってもいい」


「任せますね。なら、わたしは魔法で援護しますね」


「よろしく頼む」


 ある程度の情報と戦いの役割の話をしてその日は就寝することにした。


 夜、寝室で聞いた、ミリムの地元の猫人族の常識を苦笑いしながら聞いていた。

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