第15話 先輩冒険者と模擬戦なのですね

 ニャマが初めてダンジョンに行った日から一週間ほどが経過した。

 その間に、リシェルの派遣冒険者の許可が下りた。どうやら、私達と少し契約内容が違って、強制依頼を拒否できるそうだ。

 一緒に行動できる人数が三人になったので、依頼の無い日は野兎やダンジョンでプチゼリーを狩っていた。


 日課で奴隷ギルドの受付にいくと、受付嬢から「冒険者ギルドから話があるそうです」と言われたので、冒険者ギルドで二人と別れて話を聞きに会議室に連れられて行った。

 会議室にはいると、ギルド職人とオルフェさんが座っていて、ニャマに席に着くよう促した。

 ニャマが席に着いてから、挨拶を済ますとギルド職員は直ぐに本題に入った。


「今日、ニャマさんをお呼びしたのは、先日の新人冒険者三名とのダンジョン依頼の件です」


 ニャマは、何をやらかしたのか身に覚えのないので


「えっと。なにかありましたか?」


「素行などは問題は無いよ。ただプチゼリー相手では、君の実力を測れなかったようなのです」


「すまんな。余裕で倒していた様だから、どのくらいの腕か良く分からなかったんだ」


「そうですか。なら、強い魔物を狩りに行くのですか?」


「いいえ。こちらでは、あなたがどの位の魔物を討伐できるか決めかねます」


「それに、討伐する時間も係るからな、すぐに済ますために俺と模擬戦をしてもらうことにした」


「オルフェさんと模擬戦ですね。う~ん。武器は今短剣しかもっていませんが?」


「ん? 何か他の武器が良いのか?」


「そうですね。出来れば両手剣が良いです。お父さんと模擬戦していた時はいつも両手剣使っていたので」


「そうなのか、その割に短剣から変えてないみたいだが」


「それは、お金が掛かるのと、今狩っている魔物なら短剣で十分なの」


「わかった、じゃあ練習用の両手剣があるはずだから、それを使ってみるか?」


「ええそれでお願いします」


「よし、そうと決まれば時間が惜しい、すぐに訓練場を借りるぞ」



 そうして、ニャマ、オルフェ、ギルド職員の三人は、倉庫で練習用の両手剣を受け取ってから訓練場に向かった。


 冒険者ギルド訓練場の中央には、模擬戦用の闘技場がある。開けた場所にあるが、四方に結界の魔装具が置かれている為、流れ弾を心配することは無い。

 ここは、中級冒険者昇格試験の会場になったり、冒険者が対人戦を練習する場になっている。たまに冒険者同士の揉め事から戦うこともあるが、冒険者ギルド入会試験の面接で素行の悪い者は落とされるので余り起きない。

 素行の悪いごろつきは、傭兵ギルドに行くことが多い。


 三人が着いたころ、闘技場では二人の冒険者が模擬戦をしていた。闘技場の周りには数人の冒険者が模擬戦の様子を見ている。

 熟練の上級冒険者で、ギルドの昇級試験の試験官をしているオルフェが闘技場に来たことで、周りに居た冒険者は誰かの昇格試験が始まるのかと期待してオルフェの側にいる人物に注目する。

 オルフェの隣にいる人物が、首に青い首輪をしているのを確認すると、より注目度が高まったようだ。


「青い首輪? 派遣奴隷がなんでオルフェさんと?」


「私服? 動きやすそうな服だけど防具はしてないよな」


「ああ、それに昇格試験でもないのにオルフェさんと模擬戦するのか? そんなことより尻尾モフモフ」


「だけど武器は練習用のだから、オルフェさんの相手はあの猫人族の娘だろ? はぁ? モフモフするなら耳裏だろ」


「だよなぁ。相手オルフェさんだから相当な使い手なのかな。いや、尻尾だ」


「恐らくは、そうだろうな。オルフェさんの次に、闘技場で一戦やろうや」


「ああ、見逃せない試合になるかもしれねぇな。良いぜ、尻尾か耳裏かはっきりさせよう」


 そんな、話を聞きながら闘技場が空くのを待っていると、先程の戦いが終わったのか、二人の冒険者が闘技場から出てくる。

 それをみたオイフェが、入れ替わる様に闘技場に向かいながらニャマに手招きをした。


「じゃあ、次やらせてもらうぜ」


「どうぞどうぞ」


「よし、ニャマ、中に入って確かめさせてもらうぞ」


「は~い」


 二人で闘技場に入り対峙すると、オイフェは構えもせず言い放つ


「さて、何時でも本気で攻撃してきて良いぜ」


「では行きますね」


 ニャマも本気でと言われたので、集中してじりじりと間合いを詰めていく。まだ両手剣の間合いではないが、ニャマは一息に間合いに入り左下から右上へ逆袈裟切りを放つが、オルフェが剣で受け弾いた。

 純粋な力の差か、呆気なくニャマの剣は弾き返され、たたらを踏んでしまう。


「っ! わ!」


「はっや」


 そう、驚いたような声をあげ、冷や汗をかいているオイフェ。自分の認識を改めたのかしっかり構えを取ってニャマと対峙する。

 その後もニャマの攻撃が続くが、ことごとく弾かれてしまった。


「ふむ。お前の攻撃は良く分かった。じゃあこっからは俺も攻撃するぜ」


 オルフェは、ニャマの攻撃を弾いた隙を突いて剣を振り降ろすが、ニャマは身を引いて躱す。

 振り降ろしを狙って攻撃しようとするが、オルフェの体制は崩れておらず、返しで弾かれそうになるが、捌いて態勢を整える。

 暫くは互角の打ち合いをしていたが、時間が経つにつれニャマの動きが悪くなっていった。

 明らかにスタミナ切れの様子を見せた所で、オルフェは大きく後退したが、ニャマにはもう追う力は残っていなかった。

 肩で息をして、鉛のように重くなった剣を構え直したところで


「ふぅ。よし! 大体わかったから、此処までで辞めておこうか」


「ぜぇ はぁ ありがとうございました。はぁ ぜぇ」


 終了の宣言と共に、ニャマは剣を取り落し、そのまま両手を地面に付けてへたり込んだ。


「はぁ。う~。全然攻撃が届かなかったよぉ」


「剣筋は良いが力がまだまだ足りないな。今回の模擬戦の結果を受けて依頼の指示が来ると思うのでそのつもりでな」


「はい」


「では、今日はここ迄だ。明日筋肉痛にならないようにしっかり休んでおけよ」


 オイフェはそう言って、闘技場から出てギルドの方に帰って行った。それを見たギルド職員が慌ててオイフェに後を追って行ったのを、疲れた目でニャマは見ていた。








「だぁ~!。疲れたぁ」


 急いで冒険者ギルドの会議室に戻ったオイフェは、勢いよく椅子に座るとそうつぶやいた。

 その後入って来たギルド職員は、オイフェに水の入ったコップを渡しながら


「お疲れさまでした」


「ああ、まじで疲れたわ」


 そういって、コップの水を飲み干すと


「攻撃と回避の技術は素晴らしいものがあるな。特に回避はギルドトップレベルだろう」


「ほう、そこまでの評価がありますか」


「だが、筋力とスタミナはまだまだだな、恐らくは天性のセンスで今まで長期間の戦闘をしていないのだろう」


「なるほど、なら、討伐は高め、ダンジョンは低めですかね」


「だなぁ。討伐は中の上辺りまでか、ダンジョンは下の上辺りかな」


「ですね。それと彼女はどのあたりまで行けそうです?」


「筋力はともかくスタミナをつけて継戦能力を身に付けたら『二つ名』まで行くんじゃないか?」


「それは、楽しみですね」


「ああ、楽しみだな」


 そう言って、オイフェは空になったコップを机に置いた。

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