第14話 初指定依頼はダンジョンへ行くのですね

 リシェルの誘いで魔法を覚えてから数日。何時ものように奴隷ギルドの受付に行くと


「本日、ニャマさんには、冒険者ギルドからの依頼があります」


「ギルドからですか?」


「はい。内容は、新人冒険者パーティと共に都市ダンジョン『ジベル第六迷宮』の一層での魔物退治になります」


 都市ダンジョンは、その都市が管理しているダンジョンだ。ダンジョンを踏破してダンジョンコアの魔の欠片を持ち帰り、都市の役員をダンジョンマスターにして生命の宝珠の結界範囲内に作られたダンジョンの事である。

 都市の都合でダンジョンの内容が操作できる為、罠は無く比較的安全で生活に便利だったり、貴重なアイテムがドロップするダンジョンになっている。

 ただ、生成される魔物はダンジョンコアに左右されるため、各都市の特産品や名物といった特色を産むことになる。

 余談だが、コアルームは入口付近にあり、毎日マスターが通勤していたり、都市ダンジョンの命名権は、ダンジョン踏破者が付けることになっていたりしている。


「わかりました。冒険者ギルドに行きますね」


「はい、今日も無事に帰って来て下さいね」


 受付から離れると


「ニャマ初ダンジョン気をつけて。今日は、私一人で野兎狩ってるね」


「うん、一足先にダンジョン見て来るね」


「帰ったらダンジョンの様子教えてね」


「うん」




 冒険者ギルドの受付に今回の依頼内容を聞くと、今日の指定依頼は冒険者パーティではなく冒険者ギルドからで、今日初ダンジョン予定の冒険者三名と引率者で行くダンジョン研修に参加しろ、と言うものだった。ニャマとサリーナは元々ダンジョンにも潜りたいと希望を出していたからこそ、この指定依頼が来たのだ。

 だけど、依頼で一緒に行くはずの冒険者パーティはまだ来ていないと言われた。

受付嬢の指示通り、食堂で待機しながら、受付嬢から言われた今日の諸注意を思いだしている。

 時間が過ぎていき、昼前に件の冒険者パーティが来たようだ。受付嬢がニャマの所に来て


「お待たせしました。彼等も初ダンジョンという事なので、よろしくお願いします」


 案内されて、受付の方に行くと、ニャマと同じくらいの年齢の人物が三人と、熟練冒険者と思われるいで立ちをした人物が待っていた

 その熟練者の冒険者がニャマを見て


「お? お前が噂の派遣奴隷の片割れか」


「え? 噂って何ですか?」


「新人で、若い野兎を狩りまくってる連中がいるってな。普通は太った野兎を狩るから珍しいって話だ」


「あ~。 地元でいつも狩ってましたので。あ、わたしはニャマです。今日はよろしくお願いします」


「おう。今日は全員ダンジョン初回だから引率として付いて行くことになるオルフェだよろしくな」


 初心者冒険者の三人の男性とも挨拶を交わした。彼らは礼儀正しくニャマに応対していた。挨拶が終わると早速ダンジョンへ行くこととなる。


 今回の都市ダンジョン『ジベル第六迷宮』通称ジベ六は、文字通り、冒険者ジベルが踏破した六番目のダンジョンという意味で、何時も野兎を狩っている平原の中に入口の門が開いている。都市から門までは、しっかりとした道が踏み固められていて人の往来が多いことを物語っている。


「今日は、日帰りでこのダンジョンの一層で狩ると冒険者ギルドに申請してある。余裕があるからといって、野営したり二層に行ったりしないように。もし未帰還の場合の探索は申請した階層までしか探索しないからな。肝に銘じておけ」


「はい」


 これは、国や都市が運営している都市ダンジョンの決まり事で、申請した所までは保証するが、申請外の事は自己責任となる為だ。

 ただ、何処にいるかは、ダンジョンマスターを通じて分る為、申請外でも救出後に莫大な違約金を取られるのが通例になっている。


「では、ダンジョンに入るぞ」


 そう言って、オルフェを先頭に入口の階段を降りて行った。暫く降りると入口と同じような門があり、そこを潜ると草原が広がっていた。


「ダンジョンってのは、ダンジョンコアの中の世界と言われている。故にこんな、外の様な階層がある。ここは草原だが、森や砂漠、湖。雪山など色々な地形があるので、そのダンジョンの気候も注意して欲しい。

 また、ダンジョンコアを破壊すると、そのダンジョン内に居た者が全員例外なく行方不明になる。だから、将来ダンジョンコアを取得する機会がっても絶対に壊さないように」


 そう言われながら進むと、青いゼリー状の魔物が現れた。ぷよぷよしていて丸く中は透明で時々泡がたっていて、中に白い球体が浮かんでいるのが見える。


「あれは、プチゼリーという魔物だ。外に居る魔獣のプチゼリーは草食で人を攻撃さすることは殆どないが、魔物のプチゼリーは積極的に攻撃してくるからな、同じ名前、姿でも魔獣と魔物では性質が違うものもいるからしっかり覚えておけよ」


 新人冒険者の三人がプチゼリーと戦闘しているのを二人で見てる。


「おい、ニャマはいかないのか」


「最初ですし、三人がどんな戦い方をするのか見たかったので」


「なるほどな。まあ、少しは脅したが、ここの一層はプチゼリーしか出ないし、人気の狩場だからな、そこまで気を張ることも無いぞ」


 ここの階層ででる青いプチゼリーは、珍しい種類でこの都市の特産品でもある。ドロップアイテムの「青いゼリーコア」は、砕くと重曹になり、石鹸や炭酸水の材料になるため需要が高い。


「でも、彼等とは今日だけですし、途中から少し混ぜて貰います。それまではっと」


 ここで、近くに居たプチゼリーがニャマに向かって飛び掛かって来たので、カウンター気味に蹴りを放つと、ぱっぁんと言う音と共に破裂して、ドロップ品の青いゼリーコアに変容した。それを掴みながら。


「一人で狩ってみますね」


「……ああ、その実力なら問題ないだろうが、逆に彼らの自信を奪いかねんな。混ざるなら手加減しておけよ」


「はい」


 その後は、新人冒険者達と一緒に狩りを楽しんだ。ただ、彼等は初めての緊張からか結構必死の様子だったが、無事に狩り終えることが出来た。


 しばらくして帰る時間になり、予定通りに冒険者ギルドに帰って来て解散になった。

 新人冒険者達は、ギルド食堂で今日の戦闘の事を話し合いながら食事をしている様だ。

 ニャマはそれを見つつ、奴隷ギルドへと帰って行った。







 オルフェは、解散後ギルドの会議室へと足を運んだ。中にはギルド職員と受付嬢が座っていた。


「オルフェさん本日はお疲れさまでした。今回の新人はどうでしたか?」


 ギルド職員がそうオルフェに尋ねる。


「ん~。まずは、冒険者パーティの三人だな。彼らは平均的な能力を持ってそうだな。性格的にも無茶をしなさそうだから、長期にわたって冒険者をしてくれそうだ」


「そちらは、こちらの判断と一致していますね。彼らに任せ監視は無しで良いでしょう」


「次の派遣奴隷の方だが、正直プチゼリーでは力量を測れなかったわ。余裕で捌いていたしなぁ。ジベ六だと三階層位までは余裕そうだ」


 その報告を聞いたギルド職員は指をこめかみに置きながら


「やはりあなたでも無理でしたか。う~ん。だれかと模擬戦でもしてみたほうが良いのかもしれませんね」


「無理やり熟練パーティに付けて高階層に行くよりかは、その方が良いと思うぜ」


「わかりました、数日中にもう一人のサリーナさんにも依頼しますので、その時はよろしくお願いします」


「おう」


「では、詳細を聞きましょうか」


 こうして、オルフェとギルド職員の話は続いた。


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