第12話 魔法は便利だけど返済金がかさむのですね

 私達が派遣冒険者になってから一週間がすぎた。その間は指定依頼もこなかったので、野兎を狩って肉をギルドに卸していた。

 店に直接売ることは、冒険者ギルドに貢献していないという事でしなかった。

 そんなある日の朝、ニャマが自分の部屋から出ると隣の部屋からリシェルが出てきたところだった。


「おはよう。リシェル」


「おはようございます。ニャマ。ちょっと聞いて下さいですわ。ここに来てからもう一週間、未だに許可がでないので、暇なのですわ」


「まだ、派遣冒険者の許可出ていないのね」


「そうなのですわ。だから今日はわたくしに付き合って欲しいのですわ」


「別にいいけど、何をするつもりなの?」


「ずばり! 魔法ですわ! わたくしも鍛錬したいですし、ニャマも折角属性有るんだし、サリーナも冒険者に有利な無属性の魔法を覚えるのは、今の時世必要な事ですわ」


 リシェルは若干早口で誘っている。ニャマとしても今後の依頼をこなすのにあると便利なので魔法には興味はある。


「興味はあるけど、でも、魔法覚えるのに経費がかかるのがね」


「それなら、わたくしが、冒険者登録できれば、サリーナと三人でダンジョンに潜れますわ。そこで魔法球を見つけて返せばいいのですわ」


「確かにそうだけど、そんなに集まるかな」


「きっと、集まりますわ! サリーナも呼んで魔法屋に行きましょう」


 リシェルの押しの強さに根負けしたニャマは、今日は魔法の見学をすることを了承した。


「わかったわ。今日はリシェルと一緒にいるから」


「ありがとうございますですわ!」


「ニャマ~。廊下で何話してるの?」


 声が大きかったのか、寝ぼけ眼のサリーナが廊下に出てきた。


「あ、サリ……」


「サリーナ。おはようございますですわ。今日はわたくしと一緒に魔法見学ですわよ」


「え? そうなの?」


「うん。今日はリシェルと一緒ね。準備していきますか」


「わかったわ」


「わたくしはここで待っておりますわ」




 そうして、準備をした私達は、冒険者ギルドの隣にある雑貨屋に来ていた。この雑貨屋は冒険者ギルドの管轄であり裏に冒険者ギルドの倉庫がある。

 主に、冒険者が依頼以外で獲得した素材や道具を売っている。その中には、ダンジョンでドロップする魔法球も売られている。

 派遣奴隷は、限度額があるものの、この雑貨屋にある品物は、奴隷ギルド名義の必要経費で買うことが出来る。当然、奴隷から抜けるときの返済金に上乗せされるのだが、経費で買える分、普通の冒険者より優遇されている気がする。


「さあ、二人とも、魔法球の有る所に行きますわ」


 リシェルは、雑貨屋に着くと、わき目も降らずに魔法球売り場に直行する。


「まってよ~」


 二人は慌ててリシェルを追って魔法球売り場へと向かった。


 魔法球売り場は、売買カウンターが並んでいて、その奥に正方形の枠が沢山ある棚があり、その外枠にラベルが張ってあり魔法の名前が書かれてあった。

 そして、棚の中には魔法球が納められていた。大きさ直径10cm程の球体で、込められた魔法の属性色な半透明で中には、魔方陣が見える。恐らく、色と魔方陣で魔法球に込められた魔法を判断しているのだろう。


「二人とも、こちらですわ~」


 既にリシェルが売買カウンターの一か所を確保していて、二人は慌ててリシェルに合流した。


「いらっしゃいませ、何の魔法球をお求めですか?」


「この二人は初めてなのですわ。なので、初級魔法の一覧表をお願いいたしますわ」


「お持ちする一覧表の属性は、どれを希望ですか?」


「無、風、水でお願いしますわ」


「分かりました。少々お待ちください」


 カウンターの販売員はそう言って奥で書類を整理している様だ。


「魔法学院で基本となる所は覚えておりますわ。ですので、魔法の種類もある程度は説明できると思いますわ」


「私達は魔法に関しては素人だからね、お願いします」


「任せなさいですわ!」


 やたら張り切っているリシェルを怪訝に思いながら、販売員は三枚の紙を渡す。


「はい。指定されました属性の現在の初級魔法の在庫になります」


「ありがとうございますわ」


「それでは、決まりましたらお呼びくださいませ」


 それだけ言って、他客の対応に向かって行った。


「さて、最初は無属性魔法から見ていきますわ」


「無属性って生活魔法だよね、冒険者に関係ある魔法てあるの?」


「当然ありますわ。と言いますか、ダンジョン潜るのにパーティに一人は必須の魔法群がありますわ」


「そうなんだ」


「ええ、ダンジョンに潜ると、下層に行けば行くほど日数が掛かりますわ。長時間の探索で体臭が惨くなって、臭いで魔物に見つかる確率が上がりますわ。排便時に魔物に襲われたら対応が遅れたりしますわ」


「あ~なるほど、普段ならゆっくりできる行動が出来ない訳ね」


「そうですね。なので、身体の汚れを取る[清潔]の魔法や、身体内の不純物を浄化する[排潔]の魔法ですわね」


 ちなみに服の汚れは[洗浄]という魔法で綺麗になる。


「でも、お風呂は気持ちいよ」


「わたくしもお風呂は好きですわ。使うのは非常時のみですわ。でもこれらは、パーティに一人使える者が居れば何とかなりますし、この二魔法はわたくしが覚えておりますわ。

 ですが、お二方に是非取ってもらいたい魔法がありますわ。それは、物を亜空間に入れて持ち運ぶことが出来る[収納]の魔法ですわ」


 リシェルは、久しぶりの魔法講釈で浮かれて早口で捲し立てた。ニャマとサリーナは、ずっと待機でストレス貯まっていたのかと思い、聴きに徹していた。


「便利そうな、魔法だね」


「ええ、[収納]の亜空間は魔力の量が大きいほど限界重量が増えますわ。でも、覚えれば最低でも数キロは収納できるので、荷物が戦闘の邪魔にならなくなりますわ。これはすごく大きいのですわ」


「うん、荷物を持つ手間が省けるのね。武器とか取り出したら戦闘の幅が広がりそうね」


 ニャマは、弓をつがえる仕草をした後に、短剣に持ち変えるような仕草をする。


「ニャマが想定している様な戦闘の使い方は[収納]では無理なのですわ。見ているのですわ。[収納]」


 そう言ってリシェルは、左手から黒い魔方陣を出していく。まずは中央に紋章の様な図柄が現れて、そこを中心に円が書かれその円に沿って魔法文字なのか記号の様な文字が並んでいく。十秒ほどで魔方陣が完成すると、黒い20cm程の球体が現れる。そして、右手を球体に入れてから手を抜くと、手には銀のフォークが握られていた。


「今のが[収納]の魔法ですわ。魔方陣が完成するのが遅いので、武器の素早い入れ替えなどは出来ないのですわ」


「なるほど、だけど魔方陣の展開を早くすれば、出来そうだけどね」


「残念ですが、魔方陣の展開を早くする方法はまだ無いのですわ」


「そうなんだ、でもお勧めだけあって、少し高めなのね」


 一覧表に載っている[収納]の価格は銀貨30枚結構高い。使わなければ繰り越しも出来るが通常の限度額が銀貨10枚だから三か月分だ。初級冒険者では手が届かなさそうだ。

 しかし、派遣冒険者になった初月の限度額は金貨1枚。高いのはそれを使って装備を整えろって事らしい。


「そうですわね。上層であまりドロップしないレア魔法球ですので少々お高いですが、価格に見合う魔法ですわよ」


「そうね、これは覚えた方が便利かな」


「うん、今だと他の無属性魔法は、後からでも良さそうだし。私はこれだけにして、後は防具に充てることにするわ」


「サリーナにはしっかりとした防具が欲しいよね」


「? ニャマも防具、必要なのでは?」


「わたしは攻撃受けないから、防具無しでも平気ですね」


「だよねぇ」


 サリーナは村にいる時に、ニャマと一緒に魔獣と相対したことが何度かあったが、その中で彼女が攻撃を受けたシーンは見たことが無かった。


「そんなに自信がおありなのですわね。それなら、風と水の魔法も覚えておくと良いかと思いますわ」


 ニャマは、属性魔法の一覧を確認すると、確かに[収納]に比べてかなり安い。基本となる[風弾]や[風刃]は銀貨1枚だ。


「……なぜ、属性魔法はこんなに安いの?」


「それは需要より供給の方が多いからですわ。ほら、在庫量が全然違いますわ」


 [収納]の在庫数が5個に対し、安い属性魔法の在庫は20~30個ほどある。


「属性持っている人が10人に一人くらいなのに、ダンジョンで沢山魔法球が出て沢山余るのですわ。そういった余った魔法球は、潰して魔力石にして魔法具の電池にしているそうですわ」


「なら、属性のレア魔法球というのは?」


「さすがにレア魔法球は高いですわよ。でもあら? この二つはレアなのに安いですわね」


 リシェルが指さしたのは、水属性は[創水]風属性は[送風]という魔法だった。

 [創水]は水を生み出す魔法なのだが、魔法を解くと水が魔力に変わって霧散しまうため、飲み水などには使えない魔法だ。飲み水にするなら[飲水]の魔法になる。

 [送風]は空気の流れを変える魔法で、空気を換えたりするときに便利な魔法だ。


 どうやら、レアだけど微妙な効果故安いらしい。


「よし、わたし決めました。[創水]と[送風]それに[風弾]と[水弾]の4個で銀貨5枚、お勧めの[収納]で銀貨30枚、しめて銀貨35枚だね」


「私は[収納]だけでいいかな」


 買うものが決定したので、販売員を呼び6個の魔法球を購入した。


「本日はありがとうございました。魔法球をすぐに使用されるなら、あちらでどうぞ」


 販売員が示したのは、試着室の様な個室だった。


「お二人共、ここで使用した方が良いと思いますわ」


 リシェルの意見に賛同した二人は、個室に三人で入った。


「さて、魔法球での魔法の覚えかたですわね、手に魔法球を握って魔力を当てれば、魔法球の中の魔方陣が手の中に入って行くわ。それで、魔方陣の形が詳細に思い浮かべられる様になったら成功ですわ」


 そう言われた二人は、魔法球を握ってみると、ニャマの方は直ぐに魔法球が消え魔法を覚えることが出来た様だ。


「なるほど~ これが魔力なんですね」


 しかし、サリーナは、魔力を扱うことが難しく、魔法球は手の中に在る。


「……魔力ってどうやって出せばいいか解らないわ」


「サリーナ、一旦魔法球を置いて、両手を出してくださいですわ」


 彼女に言われるまま手を出したサリーナの両手を握ったリシェルは


「今から魔力を流しますわ。それで魔力の流れを掴んでください。大体これで、魔力が扱えるようになりますわ」


「リシェル。お願いします」


 そうして、リシェルは、サリーナに魔力を流していく。すると直ぐに魔力の流れを感じたらしく


「あ、この感覚なのでしょうか、流れる感じがしますよ」


「その流れる感覚を、魔法球に流せば良いのですわ」


「分かったもう一度やってみる」


 そう言ってサリーナはもう一度、魔法の取得に挑戦する。今度はうまくいったようで、無事魔法の習得は終了した。

 ニャマは、サリーナとリシェルが魔力を流しているうちに、残りの魔法を取得していた。


「サリーナこっちは終わったよ」


「私も終わったよ。それにしてもニャマは直ぐに覚えるんだね」


「何となくで分かるのよね」


「資質のある方は、初めてでも魔力の流し方を知っていることは多いみたいですわ」


「そうなんだ、私も資質ががったらなぁ、攻撃魔法打てたかもしれないのに」


「そうですわね。気休めかも知れませんし、物凄く高いですが、属性石というのもあります。また、後天的に属性を持った例はありますから」


「そっか、ありがとうね」


「さて、お二人とも魔法は初めてですから、魔法の練習をするために冒険者ギルドの訓練所へ行きましょう」


 そこで、リシェルの今日の目的は冒険者ギルドに行くことだと理解したが、私達の魔法習得も目的なのだろうと思い、三人で冒険者ギルドへと向かった。


 

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