第2話 貴族も村人もドロドロは変わらないね

 カリナの顛末は『閑話 カリナの場合』にあります。

 一応ざまぁ展開みたいにはなっているかと。 

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デルボッチ商会のキャラバンが、ニャマの住んでいた村を出発した翌日。揺れる馬車の中で、奴隷四人はようやく、全員で会話できるようになっていた。


 初日は、死んだ目をしたカリナが、体育座りして一言も話さない状態だったので、他の三人は、馬車中や宿でカリナをなだめすかして、ようやく受け応え出来るようになった。


「三人とも違うの…… あたしが辛かったのは、奴隷になる事じゃないのよ」


 そう言って、カリナは、ぽつぽつと、村での出来事を語り始める。


「あたしと旦那のディスは、昔から仲が良かったわ。小さいころからディスのお嫁さんになるとか言ってたわね」


「いきなり惚気られたわ」


「いいなー。私やニャマはそんな人いなかったよね」


「そだね。わたし達はあぶれちゃったね」


「ぷっ。当り前よ。あんた達仲良すぎたから、他の男の子が入る余地無かったじゃないの」


 リリが噴出しながら、二人に彼氏が居なかった理由を告げていた。カリナの落ち込み様から出来るだけ明るく会話しようと気を使っている。


 四人は、そうやって小話をしながら、カリナの話を進めていった。



 

 まず最初に、カリナとディスが両親に結婚の挨拶をした時に、ディスの母親が猛反発したのだ。

「おまえの様な器量では、息子の嫁に相応しくないわ! ディスの嫁はメナしかいない!」

 ディスの母親は、メナという村娘を可愛がっていて、彼女も乗り気だったため、メナの両親とも将来はディスと結婚させようと約束していたらしい。

 ディスにもメナとの結婚話は来ていたし、メナ自身も積極的にアピールしていたが、カリナ以外眼中になかったので、ディスは無視していた。

 そして、問題解決の為、三家族と村長の話し合いの結果、ディスの意見が通り、カリナとディスの結婚は認められた。


「あ~。あの時は相当揉めてたよね~。ディスとメナの母の金切り声が私の部屋にまで届いてて五月蠅かったの覚えているわ」


「私達はその話は、初耳だね~」「ね~」



 無事結婚して蜜月の日々を送るかと思った矢先に、魔獣被害が出始める。それに加え、カリナが気に食わないディスの母親の小言も多く、精神的な負担が重なっていった。


「本当に小言がきつかったわ。掃除しても少しでも汚れがあると指摘されるし。どんな料理の味付けも、濃い、薄い、まずいと文句を言われ。行動が遅いとか散々言われたけれど、ディスのこと好きだったし、新しい家が出来るまで我慢すればいいと思っていたわ」


「私は無理かなぁ、多分喧嘩しちゃうね」


「あたしなら間違いなく手が出るわね」


「ニャマは口より手が出る方だもんね。カリナさんもここで全部愚痴を吐けばいいわ」


 リリの会話を皮切りに、相槌を打ちながらカリナさんのディルの母親に対する愚痴を暫く聞いていた。


 一息ついて続きを話し始める。そのためか、カリナは結婚から半年たっても妊娠しなかった。

 そんなおり、奴隷商人がこの村に来るという話が舞い込んできた。


 それを聞いたディスの母は、即座にカリナを売ろうと家族に提案する。

 最初はディスもカリナを売るのに反対していたが、半年経ても妊娠しない事、災害で冬を越せ無さそうな事、カリナの器量が無い事を理由に説得され、ディスが折れてしまった。


「それでもディスは、いつか買い戻してまた一緒に暮らそうって言ってくれたのに」


「まあ、ギルドの派遣奴隷だし、カリナが普通に働いていれば、二、三年で自由になるんじゃないかな?」


「そうなの? でも、もうどうでもいいのよ」


 カリナは気落ちしたまま続きを話す。

 ディスは、カリナが売られる当日まで、ずっとカリナを気遣って励ましていた。


 そして、カリナは売られ、ディスとの別れのキスをした後、デルボッチ商会のビリに連れられて歩き始めた。最後にもう一度ディスの顔をと後ろを振り返った瞬間、カリナは絶句した。

 

「いつのまにかね、メナが居たのよ。ディスの後ろから抱き着いて、ざまぁって顔で笑ってたわ」


「「「……」」」


「止めにね、ディスは私の方を心配そうに見てたけど、その右手は、抱き着いたメナの手を包み込んでたのよ」


「「「……」」」


 流石に、何も言えなくなった三人であった。


 この後、突然死んだ目になったカリナと、メナの行動に気が付いたカリナの両親がぶち切れその場で大喧嘩し始めたのだが、心の折れたカリナには聞こえなかった。


 余りの惨さに、しばらく、無言の時間が続くが、沈黙は意外な所からやぶられた。


「よう、カリナっていったか」


 馬車の御者席から男の声が掛かった。ニャマは声からしてリッドだと分かった。


「あ、リッドさん聞いていたんだ」


「わりいな。仕事柄、聞かなきゃいけなかったんでな」


 そこで一区切り入れて。


「気休めかもしんねえが、王都行ったら、そんな奴よりいい男なんて腐るほどいるぞ。運が良けりゃ玉の輿だって狙える。教育された奴隷ギルドの女奴隷はな、求婚率高いんだ。良い男捕まえて見返してやれ。あ、ちなみに俺は嫁いるから駄目だぜ」


 ニャマは、何かを払拭するように頭一つ振ってから


「りっちゃんナイスフォローよ。そうよカリナさん。別れて数秒で別の女とくっつく奴なんて忘れてしまたほうがいいのわ」


 ニャマの発言を追従するようにサリーナが言う


「そうそう、カリナさん。良い男捕まえて、メナにざまぁ顔してやればいいのよ」


 暫く黙っていたリリが、ポツリと言葉を零す


「……「戻ってくるまで待ってる」って、シリウスはいってたけど、待っててくれるのかなぁ」


 リリはそう力なく言い、自前の犬耳が垂れ下がっていた。


「あー! リリさんに飛び火したぁ。大丈夫。シリウスさん真面目だから待っててくれるわ」


「昨日の今日で元旦那をそこまでボロボロに言われると……」


「もう、カリナさんは、忘れたほうが良い! 王都でお金貯めて両親を王都に呼ぶのよ! それが良いわ!」


 カリナは、深く息を吸い込んでから息をゆっくり吐いてから、意を決したように


「……そうね。皆、りっちゃんでしたか? ありがとうございます。少しは元気は出ました。それと、迷惑かけてごめんなさいね」


「俺は別にいい。それと俺の名前はリッドだ。ニャマ。勝手にあだ名付けるなよ」


「はーい、リッドさん。さっきは咄嗟で出ちゃいました。気をつけますね」


 その後は、皆が落ち着くまで少し待った。




「さて。カリナさんも復活したことだし、改めて自己紹介を始めましょうか」


 ニャマは皆を見渡してから。


「じゃあ、わたしが一番ね。わたしはニャマ、15歳です。夢は冒険者になる事。売られたのは、お父さんが商会呼んだのでわたしが立候補しました。まあ、兄貴は長男だし、弟と妹は10歳と12歳だから、消去法でも私だったわ。さ、次はサリーナちゃんどうぞー」


 ニャマは無理に明るくするように喋っている。


「え~と、私はサリーナ。ニャマちゃんと同じ15歳です。夢はお金を稼いで親に仕送りがしたいです。売られたのは、お金が無いから。お兄ちゃんを売るわけにはいかないので私になりました。じゃあ、次はリリさんお願いします」


 ちなみに、ニャマとサリーナの兄も仲が良く、お互いの妹を狙っていたのだが、二人にそんな気はさらさらなかった。二人とも残念。


「はい、私は村長の娘でシリウスの妻のリリです。今年で18歳になります。目標は早くシリウスの元に帰る事ですが、先程の話を聞いてお金を溜めて首都に招くのも考えています。売られた原因は、村長の一族から一人出す為です。兄は次期村長ですし、妹はお腹に子供が居ましたから、私が赴くことになりました。最後カリナさんお願いします」


 リリは犬人族の女性で茶色の髪と目を持っており、顔立ちも整っている。少したれ目がちな目が特徴だ。身長はニャマと同じ位の150cm程なのに、胸と尻が非常に大きくグラマラスな体型をしている。ボンキュボンだ。


「……カリナです。今年で16歳になります。目標は、まだ無いです。これから決めたいと思います。売られた経緯は先ほどお話しした通りです。これから宜しくお願いしますね」


「「「よろしくおねがいします」」」


 カリナは身長160位で、背中まである金髪のウエーブのかかった髪、藍色の瞳の人間族だ。体型は一般的で大きくも小さくもない。ニャマとよく似た体形をしている。


 挨拶が終わった所で、丁度、今日泊る街が見えてきたそうだ。


 ニャマは、今日の宿での会話は弾むだろうと胸をなでおろしていた。

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