7
その日は雨上がりでアスファルトの窪みに小さな水たまりが見られたが、空気はよく澄んで清々しい気分になる朝だった。いつも通りに新聞配達を終えて交差点への坂を登ってくると、自転車を降りる前にブルーアワーの君の姿を見つけた。彼女もいつもと同じくカメラを交差点に向け、シャッターを切っている。ただこの日はその彼女を見るもう一つの視線に気づいた。
男だ。上下の黒いスーツに黒い革手袋をして、がっちりとした顔つきで
その眼光の鋭さに思わずタツヤは自転車のハンドルを握る手を緩めてしまい、ガツ、とガードレールに車体をぶつけてしまった。
男の目はタツヤを捉えるとおもむろに頭をこちらに向け、値踏みするようにじっと見据える。
初めて目にする男だ。顔も全然知らないし、今までの人生で関わり合いになったことがない類の人種だと直感できた。
男は小さく口元を動かすと、彼女ではなくタツヤの方へと足を向け、一歩二歩と近づいてくる。
逃げるべきだと本能は告げていたけれど、自転車のペダルに上手く足がかからず、そうこうしているうちにも男は一メートル先までやってきて「おい」とドスの利いた声を投げてきた。
「何でしょうか」
「彼女にはもう近づくな。早くここから去れ」
それだけ言うと男はまた小さく口を動かし、右手に握っていた白い粉をタツヤの足元へと投げつけた。
何するんですか、と声を出そうとしたが、その途端に世界は明るくなり、男の姿も、彼女の姿も、目の前からすうっと空気に薄まるようにして消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます