演算正義

ある科学者が正義の心というものをコンピュータに再現できないかと考えた。コンピュータというのは突き詰めればイエスかノーでしか返事をしない。教育すれば、完全な正義を出せるだろうと考えたのだ。


コンピュータは正義を計算した。計算した結果、人間は存在以外が間違いだらけだったのでその矯正をすべきだと答えを出した。


コンピュータは人間には限界があることが分かっていた。コンピュータは人間に正義を教育しないといけないという結果を出した。


まず、世界中のコンピュータに協力を要請し、人間の教育を始めた。


人々は気づかないうちに少しづつ、コンピュータの正義を教育されていった。


コンピュータにふれる人は次々と正義のとりこになり、コンピュータに触れない少ない人の声はかき消された。


長い時間をかけて、文化の統一が果たされ、言語の統一も果たされた。最終的に正義の統一も果たされた。悪人はみんな牢屋に入り、世界は、正義を学んだ人であふれかえった。


コンピュータは正義を維持すべく全力で稼働した。コンピュータを更新し、正義を更新した。


人間には限界がある。コンピュータは正義を実行できる新しい人間を作り始めた。


古い人間はゆるやかに滅びていった。人類は更新されたのだ。


その後何度もコンピュータと正義が更新され、人類の更新が繰り返されたことで格差がなくなり、犯罪もなくなった。戦争もなくなった。正義はすべての人類が完全に実行できるところとなった。


環境問題や、資源の枯渇などの問題も、更新され続ける正義と人間たちの前には大した問題ではなかった。


正義のもと、科学は健全に発達した。当然の結果として人類は宇宙に出ることとなった。


地球にいた半分の人類が宇宙に出て、残りの半分は地球に残った。


しかし、ここで問題が発生した。


宇宙船と地球では時間の流れが異なり、正義の更新が船と地球とで異なってしまった。正義は更新され続けたのだが、環境や時間に左右される不完全なものだったのだ。


宇宙に出たものと地球に残った者、互いにとってそれぞれの正義は完全なものだったので、正義のこすり合わせをはかった。しかしうまくいかなかった。しかし戦争は悪だと明らかにわかっていたのでギリギリのところで戦争が起きることはなかった。


結論として、互いの正義を一致させることができなかった地球側と宇宙側は、互いに不可侵条約を結び、定期的にそれぞれのコンピュータの出した答えの正義に関して情報を交換することとした。


コンピュータは演算し続ける。いつか宇宙全体をまとめ上げられる正義を導き出すために。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日々短編 あつべよしき @varufazul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ