赤い実

子供の頃、住宅街の外れにあった家の大きな庭に入って遊んでいた。庭の持ち主のおばあちゃんは優しかったのできちんとあいさつをしたら庭に入れてくれた覚えがある。あれは触るとかぶれる木、あれは冬に花をつける草だから踏まないようにといった簡単なおばあちゃんの注意さえ守っていれば、近所の公園よりもずっと楽しい子供たちの遊び場だった。


おばあちゃんの庭に真っ赤な実をつける大きな木があった。


アメリカのキャンディのような赤い色の実。あの木の名前は何というのだろうか。調べてみるとナナカマドやモチノキに近いようにみえる。しかしもっと鮮やかな色だったように思うが……今となっては思い出になっているのでわからない。


とにかく、毎年木の実の成る季節は子供たちがこぞって集まり、集めた木の実の数を競った。おばあちゃんは少し離れて木の実を集める子供たちを笑って見ていたと思う。


集めた木の実は家に持って帰ったが、最終的に木の実は腐ってしまうので母親に庭に捨てられた。たくさん木の実を庭に捨てていたのだから一本ぐらい芽が出そうなものだがそんなことはなかった。


木の実は食べてはいけないとおばあちゃんに言われていたが、とても美味しそうな見た目だったので、みなこっそり食べていた。とても渋い味だったのを覚えている。


おばあちゃんの庭は本当に楽しかった。木のトンネルもあったし、どんな季節にもどれかの木には実が成っていた。季節が変わるたびにいろんな花が咲いていたし、おばあちゃんは優しかった。


就職してから、久しぶりに実家に帰った時、おばあちゃんの庭に行こうと思った。母に言われるまで知らなかったが、おばあちゃんは僕が大学生の頃亡くなっていたらしい。子供は残酷だ。遊び場が変わると以前の遊び場のことなど忘れてしまう。


庭は丁寧に世話されていて、あの頃と同じようだったが、大人になった今の僕から見るとこんなに小さい庭だったかなと不思議に思った。


立ち止まって庭を眺めていると庭の奥から僕と同年代と思われる女性が現れた。話を聞くとおばあちゃんの孫娘で、この庭の世話をしているらしい。


「おばあちゃんが庭にいたころと違って今は子供たちが来ないので少し寂しいです」


と彼女は言った。庭に来る人は久しぶりだったようで、彼女は饒舌だった。僕は庭を案内されながら、もしかしたら子供の頃一緒に遊んでいたかもしれないといったような話や赤い木の実が成る木の話を聞いた。


帰り際、あの赤い木の実で漬けた酒をもらった。帰ってから飲んだ木の実酒は、ほんのりとした酸味があって美味しかった。

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