私の彼は吸血鬼
便器に顔を突っ込んで血を吐き続ける美丈夫。これが私の彼氏であり、吸血鬼である。
彼によると、吸血鬼は血液に溶け込んだ生命エネルギーを栄養にしているらしく、エネルギーが枯れた血液はどこからか出さないといけないらしい。吸血鬼としての美学からか、うんこやおしっこをするのはどうしても許せないので、こうして便器で血反吐を吐いている。
彼が吐いている間、手持無沙汰なので馴れ初めから話したい。
ある夜、買い物の帰りに男に襲われそうになったところを彼に助けられた。その時の彼の紳士的な態度や、顔の良さからほとんど一目惚れしていた。あとで聞くと彼もそうだったというから喜んだ。
翌日、日課である駅前での人物スケッチをしていると、どこからともなく日傘をさした彼が現れた。「僕を描いてくれませんか?」と言うので、さっと描いてやると彼はすごく嬉しそうだった。彼は、鏡や水面、写真などに姿が映らないため、自分の姿に関心があったらしい。
それから毎日彼は姿を現した。スケッチをしたり他愛のない話をしたりした。彼を私の家へ招き入れるまでに時間はそれほどかからなかった。
家へ招き入れると何となくエッチなことをする雰囲気になったので、覚悟を決めて、パンツまでキチンと準備した。処女だった私さようなら。こんにちは新しい私。みたいなことをグルグル考えてるうちに彼に押し倒され、初めて血を吸われた。
血を吸われる快楽と、なんで血を吸われているのかわからない混乱とで目を白黒させていると、彼は自分が吸血鬼である事と、私の血の味が微妙(厳密には「ん~惜しい!」)だったことを告白した。とりあえず一発ぶんなぐった後、私たちは付き合うことにした。
私はイラストレーターなので生活が不規則になりがちで、これが私の血の味が微妙だった原因らしい。彼は私の血をどうしてもおいしく飲みたいらしく、私の健康に気を使ってくれた。毎日血液にいい料理を作ってくれた。
栄養ドリンクは禁止され、よくわからない漢方薬を飲まされたりもした。脱法ではないか?と思ったこともあったけど、それに対し彼は「大丈夫、法律が変わるごとに調合を変えています」とこたえた。キクからいいやと飲み続けた。
私の血が美味しくなったからか、次第に血を吸う回数が増えた。そこで問題になったのは血を吸われるときに、どうしても快楽を感じてしまい恥ずかしいということだった。このことを彼に話すと「快楽を感じないようにできなくはないけど……試す?」と言ったので試してみた。
結果。痛い痛い痛い痛い!!いったい!!え~こんなに痛いの?おあ~と叫びながら部屋をのたうち回ることになった。よく考えてみたら、首に穴開くわけだからそりゃ痛い。というわけで、まあ気持ちいい感じで血を吸ってもらうのでした。ちょっとえっちなので具体的には言わないよ。
その後、家族への紹介だったり、ヴァンパイアハンターとの対決だったり色々大変なこともあった。それらの困難をを乗り越え、現在は付き合ってもう五年ほどになるだろうか。
便器から顔を上げた彼と目が合う。顔のいい男というのはどんな時も顔がいいんだなと思う。
彼との生活はまあこんなものである。まあまあいい彼氏だ。いつまで付き合っていけるかはわからないが、できるだけ長く付き合えたらいいなと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます