雨に笑えば

衣笠光雄は困っていた。彼女である愛川真理と相合傘をしたかったのである。


光雄は徒歩通学で真理は自転車通学。二人の家はある交差点から反対方向であるので、付き合ってからは毎日その交差点まで一緒に下校していた。


ふたりは付き合ってから三か月ほどである。その間に雨が降らないこともなかったが、相合傘をする機会はなかった。雨の日に真理はいつも白いレインコートを着ていたからである。


交通ルールに従い他人と自分の安全を考えて、白いレインコートを着る真面目な彼女のことを光雄は大好きだったが、相合傘をしたいという欲求はまた別のことであった。


ある雨の日、いつものように光雄は傘を差し、真理はレインコートを着て自転車を引いて一緒に下校していると突風が吹き光雄の持っていた傘が折れてしまう。急いで近くの軒先に入り、コンビニで傘を買うか、走って帰るか光雄が考えていると、真理は鞄から小さく折りたたんだ紺色のレインコートを取り出す。


「傘じゃなくてごめん」と消え入りそうな声で真理は光雄に差し出す。真理の表情はフードに隠れてわからないが、きっと真っ赤なのだろう。それに気づいているのかいないのか、光雄は喜んでレインコートを受け取って着た。


傘がない分広く目に映る雨空と真理を見て、光雄の心は晴れ晴れしていた。


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