虚空の塔

その国では一つの線が空を割っていた。


それは虚空の塔と呼ばれていた。はるか昔からあったので、その国の人々の多くは不思議に思うことなく生涯を過ごした。稀に塔を登ろうとするものもいたが、虹の根元のように塔の入り口は胡乱だったので、果たせたものは少なかった。


その国を統べる若い王は虚空の塔に不満を抱えていた。自分の住む城より高い建物があることが許せなかったのだ。


ある日、若い王は大臣たちに塔を壊すことを命じた。塔を壊すことに反対したものは殺されるか牢屋に入れられるかした。


しかし、空を飛ぶものは鳥や竜、あるいは熟練の魔法使いしかいないこの世界で虚空の塔にたどり着くのは至難の業だ。大臣たちは兵士を引き連れ、国の内外で塔について詳しいものを探し、ついに虚空の塔に登ったことがあるという冒険者を国の外れで見つけた。


はじめ、冒険者は虚空の塔に行くことを断ったが、親友を人質にとられ最終的には塔に行くことに協力するのだった。


さて、塔の近くまできた冒険者と大臣たちと山ほどの兵士は、やはり塔の入り口にはたどり着けなかった。しかし冒険者が呪文を唱えると地面を蓋するような扉が現れた。胡乱に見えていた虚空の塔の入り口は幻だったのである。


「この扉から塔の一番上の階にことができる。さあ親友を解放してくれ」と冒険者がいうと、大臣たちは兵士に命じて冒険者を殺そうとした。しかし虚空の塔に登るほどの冒険者だったので、山ほどの兵士に囲まれながらもいくらかを返り討ちにし、その場から逃げ出した。大臣たちは冒険者よりも若い王のほうが怖かったので深追いはせず、塔の調査を始めた。


扉から階段を降りると展望台のようなところに出て、国を一望できた。若い王の城もはるか下方に見えた。さらに塔を下りていくと獣が、さらに下っていくと魔物が住処にしていた。幾多の獣や魔物を屠り二週間も塔をくだり続けるとやっと底と思われるところにたどり着いた。そこには巨大なドラゴンの骨があった。


大臣たちは山ほどの兵士に命じて、塔にたくさんの爆弾を運び込んだ。半年は戦争ができないだろうというくらいの量の爆弾だ。爆発させると塔は倒れた。しかし倒れた塔は大きな破片となり国中に降り注ぎ、大きな破壊をもたらした。若い王の立派な城も壊れた。


塔を倒したのは王だと、生き延びた冒険者が噂を広めたので国民は怒り、王と大臣たちを皆殺しにした。


それ以降、その国では王が立つことはなかったが、失われた塔をしのぶように高い建物が建てられることが多くなったという。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る