死を枯らすもの

連続殺人鬼が逮捕された。


彼が起こしたのは酸鼻を極める事件で、あらゆる殺害方法であらゆる人々を殺しまわったものだった。


警察は総力を挙げて捜査したが犯行に使われた凶器が見つかっていない。犯人は笑うばかりで凶器の隠し場所は黙秘していた。


ある夜、牢で眠っていた殺人鬼の部屋にぼろをまとった女のようなものがいたのを隣の囚人が見たと看守にいったが、監視カメラには女のようなものは映っておらず幻覚を見たのだろうということで片づけられた。


しかし、この夜以降、殺人鬼は憑き物が落ちたかの如く凶器の隠し場所や被害者、殺人方法や目的について語りだした。多くは聞くに堪えないものだった。


「あらゆる人の死を集めることで、その死や災厄のにおいに誘われて向こう側からやってくるものがいる」


そう喋ったとたん殺人鬼の目と口からあり得ないほどの血があふれ、血でおぼれ死んだ。


そして、凶器は発見された。大量の血によって描かれた魔法陣のようなものの中心にあった。魔法陣を描くために殺されただろう被害者とともに。あとの調査でわかるが、現場には犯人と被害者ともう一人女のものと思われる足跡が発見された。


さて、凶器の捜索の際一人の警察官が行方不明になる。警察官を捜索して三日は過ぎたが手掛かりも見つからず諦めた頃、首のない警察官が歩いて山から下りてきた。


捜査官たちは発砲したが首なし警察官は止まることはなかった。最終的には五人がかりで取り押さえた。


解剖した結果首なし警察官は生きていた。心臓は脈打ち内臓はそれぞれ活動していた。検死官は発狂した。


その頃、街にはぼろをまとった女のようなものが徘徊していた。ホームレスの男が声をかける。女のようなものは箱を持っていたことがこのホームレスの証言によってわかっている。ホームレスは病に侵されていたが、女のようなものが患部をなでるとたちまち治った。


女のようなものはその後も次々と奇跡を起こした。死者をよみがえらせ、治らぬケガを治し、苦痛や悲嘆に暮れる心をも癒した。そのたび女の持つ箱は重くなっていくようだった。


彼女に助けられた子供が、女のようなものに名前を尋ねた。女は答えた。


「パンドラ」


奇跡は世界中に広まった。病、戦争、災害、あらゆるものは彼女が現れるごとに失われた。しかし、同時に失われたものに人々はまだ気づいていなかった。


あるものはのちに語る


「死神は魂を刈り入れ天に送るものだ、私たちにとって不本意でもね。しかしあれは違う。アレはいわば死を枯らせるものだ」


パンドラの箱は閉じられた。人々は希望もなく永遠に生きることになった。

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