時の客人

蝉の鳴き声が雨のようにふりそそぐ。


公園を走る子供。


大きな男の子と小さな男の子。


頭の中に宝の地図があり、歩く道全てが冒険だったあの頃の自分。


テレビの中のヒーローは疑っても自分自身に疑いを持たなかった頃の自分。


僕の子供は昔の自分と遊んでいる。


時の客人が現れはじめたのはいつの頃だろうか。多分人々が未来に希望を抱かなくなった頃だろう。原因はわからない。


時の客人は気がつくとあらわれていて、きっかけもなく消えている。


子供たちにとって幼い頃の自分の父や母と遊ぶのは当たり前になっていたし、僕らがすでに亡い祖父や祖母に教えを乞うことも当然あった。


僕は少し心配していた。子供には時の客人という不安定な存在よりも、もっと確実な存在とともに生きていてもらいたかったからだ。


妻にそれを言うとあの子が楽しかったらいいじゃない、と答えた。


ある日、子供たちが日が沈んでも帰ってこないことがあって、僕と妻は二人を探しに行った。見つけた時は月が昇っていた。


子供を挟んで昔の僕と、今の僕で手を繋いで帰った。


妻は子供を抱きしめ昔の自分を抱きしめた後、僕を抱きしめた。少し驚いたが心配のしすぎだよと妻の頭をなでた。


子供たちが布団で眠ったのを確認した後、妻と少し酒を飲んだ。妻は笑い上戸だったがその日は少し泣きそうな顔で酒を飲んでいた。理由を尋ねると、幸せすぎて泣きそうなのと答えた。


妻が酔いつぶれて眠ったので、毛布を掛けてやろうと寝室に行くと枕元に写真が飾ってある。そこには子供の小学校の入学式の写真。妻と子供が笑って映っている。僕は映っていない。


思い出した。僕も時の客人なのだと。



せめて起きた妻を抱きしめるまでは消えないでいたい。




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