翼をもつ戦士

怪鳥が円を描くように飛んでいる。


その下には山ほどの人の死体。


村を襲った怪鳥を討たんとして果てた、武器を持った若者たちだ。


怪鳥は強靭なくちばしと鋭い爪を持ち、大の大人を三人抱えて空を飛ぶほどの力を持つ。


しかし、怪鳥が恐ろしいのはそれだけでない。怪鳥の血を浴びると奇病にかかる。身体から羽毛が生え、骨がもろくなる。また、高熱を発しその時点で多くのものは死ぬ。生き残った者も、もはや人のようにふるまうことはなくなってしまう。


そんな折、村に凱旋した偉大な戦士。彼は数々の戦いで武勲をあげ、もはやその武勲は伝説になろうとしている人物である。


村の窮状を聞くと戦士はすぐに戦いの準備をはじめた。たくさんの弓、剣、槍、鎧を用意し、怪鳥の現れる場所、住処などを丹念に調べた。


準備が整うと戦士は村から外れた怪鳥の巣があるといわれる山に向かっていった。三日が過ぎ一週間が過ぎ、村人たちが絶望した頃、戦士は怪鳥の首を持って村に帰ってきた。しかし、全身に怪鳥の血を浴びていて手遅れだということが、怪鳥による奇病を知る誰の目にも明らかだった。


戦士は死をすでに覚悟していた。怪鳥の首を村に置いていくと、戦士は独り村を一望できる山の上まで登り、そこで眠りについた。


どのくらい眠ったろうか。目が覚めると、戦士は空を飛んでいた。きっと自分は死んで天に上る途中なのだと戦士は思い、最後に故郷を見ようと文字通り村へ飛んで帰った。


故郷の村が見えた。しかし、故郷の者は戦士に気づくと弓で射かけてきた。戦士は矢を躱し、村人に事情を尋ねようとしたが、村人は恐怖におびえ震えて身を縮こませるばかりだ。村の年寄りが魔よけの鏡を戦士に向けた。戦士は鏡に映った自分の姿を見た。


頭は怪鳥、身体は人のような、しかし全身羽毛に覆われた姿。鋭い爪を持つ指は四本しかない。背中から翼の生えた、異形の化け物になっていた。嘆いた声を出したがそれは完全に鳥のもの。もう戦士に人の言葉は話せなかった。


村人は総出で戦士を殺そうとした。彼は空に逃げ、村から離れている山へ降りると、たった独り獣のように暮らしていった。


彼は自分をこのような姿に貶めた怪鳥が憎かったので見つけるたびに殺していった。しかし、怪鳥の血を浴びるごとにその姿は人から遠ざかっていく。


その後戦士は竜になったとも死んだともいわれている。

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