SNS健全化運動

私はSNSでイラストを描いて投稿していた。自慢じゃないがフォロワー数は一万人といったところ。まあ知る人ぞ知るってやつだったのかな。


あるとき私のファンだという人物が、いかに私のイラストが大好きか描き連ねたDMを送ってきた。ほほえましいのでフォローを返してやると、フォロバありがとうございます!嬉しいです!と書き込むのだから可愛らしかった。


それからたびたびSNS上でやり取りをするようになり、ネット電話でも会話するようにもなった。会話の内容は流行りのアニメやゲームの話から、イラストのアドバイス。そのうちに身の上話などもするようになった。


彼女は専門学校でイラストを学んでいるらしく、将来はイラストレータになりたいかったらしい。不安定な仕事だからきちんと頑張らないとねというと、決まって彼女は笑った声で頑張ります!と言った。夢に向かって純粋な彼女をうらやましく思ったものだ。


私のアドバイスのおかげか彼女のイラストはどんどん上達しフォロワー数は見る見るうちに伸びていった。


そしてある日、イラストの仕事の依頼が来たと喜んだ声で連絡してきた。おめでとうと言ってあげたが、内心は嫉妬で煮えくり返りそうだった。私にはイラストの依頼が来たことがなかったからだ。


その後も彼女のフォロワー数は伸び、私の数を超えた。その頃から彼女の態度が変わった。ネット電話での会話の回数は減り、SNS上では私以外のイラストが上手い人間と絡むようになった。


次第に彼女の語ることが鼻に着くようになってきた、イラスト講座や人生論、それに日常風景ん写真を投稿するのも生意気に感じた。


彼女の発言の不快さのせいで私のやる気と時間は削がれ、次第に私は絵を描かなくなっていった。それに伴い私のフォロワー数も減っていった。焦った私は、再びイラストを投稿しようとしたが、その頃にはすっかり腕がなまってしまい思ったように絵を描けなかった。


私はどうすればフォロワーを増やせるか、彼女の不快な投稿をやめさせることができるのかを悩むようになった。


その頃、SNSには新しい流れが生まれようとしていた。


SNSの健全化運動。SNSでの誹謗中傷を防ぎ、フェイクニュースをいさめる。SNSを健全な匿名の世界に戻そうという運動だ。有名人のアカウントを閉じさせ、または発言内容を誰もが不快に思わないものにすることを目標としている。


私はこの活動を素晴らしいと思い参加することにした。


まず、自分のアカウントでこの運動について広めるような発言を多くするようにした。フォロワー数はいったん減ったあと、前以上の数に増えた。自分の発言に賛同してくれた人が多ったのだろう。素晴らしいことだ。


そして、別のアカウントを使い例の彼女に、その発言は適切ではないと注意を何度も促した。彼女はアカウントに鍵をかけた。


久しぶりに彼女から連絡が来た。憔悴しきった声での相談。曰くネットストーカーにあっているとか、中傷がやまないとか、なぜ自分がこんな目に合うのかといった内容だった。自業自得だ。


私は優しく彼女に伝えた。もしかしたら発言の言葉が受け取る側には強く見えたのかもしれないね。とか、SNSに投稿する発言や画像には気をつけないといけないとか。すると彼女から驚くべき発言が飛び出した。


「見ず知らずの他人のために私が何か我慢をしなきゃいけないんですか?」

「最低限のマナーは守らないとね」

「そのマナーって誰が決めるんですか?」


私は一呼吸置いた後、SNS健全化運動の話をした。彼女は黙って聞いていたが、話を聞き終わると、ありがとうございましたと早口でいってネット電話を切った。しばらくすると彼女のSNSアカウントはなくなっていた。


私は満足していた。


SNS健全化運動の活動は実った。SNS依存と中傷の問題は社会に多く取り上げられるようになった。SNSは規制が強くなり発言が制限されるようになった。私は常に健全な発言を心掛けていたので、今もSNSを続けられている。彼女がどうしているかはわからない。新しいアカウントを作っているかもしれないが、今度こそ誰も不快にさせないような発言を心掛けてほしいものである。

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