転生させたい女神と絶対転生しない高校生

男子高校生、神丹新我かみにあらがは天才である。頭脳明晰、質実剛健、心気溌剌。およそ天が人に与えられるものをすべて持って生まれ、また驕ることなくそれらを磨き続け成長していった。


日曜の昼下がり。日課のランニングをする新我の前に、猫が横切った。猫を追いかけて子供が道路に飛び出す!そこにトラックが走ってきた!クラクションを鳴らす!猫がにゃあと鳴く。すでに新我は走り出し、猫と子供をわきに抱えている!トラックはもう目の前!間に合わない!いや!新我なら躱せる!走り幅跳びの世界記録はおおよそ七メートル!道路の幅は三メートル!そのまま走り抜け道路の反対側へ飛んだ!着地!見事!あぶねーじゃねーかといってトラックは走り去る。


猫は新我の腕から逃げ出した。子供は状況が分かると堰を切ったように泣き出した。後になってかけつけた子供の母親に新我はひたすら礼を言われるが、これくらい何ともないですよといって新我は立ち去る。道路脇の草の陰で猫がじっとその様子を見つめている。


猫を通して新我を見ているのは異世界の女神である。彼女は自分の世界に新我を転生させて勇者にし、自分では手に負えない様々な問題を解決させようとようと目論んでいる。しかし、あらゆる病魔、呪いは新我には効かなかったので、トラックにに轢かせようと思いついたのが昨年のことである。今回ので五回目になるが新我は全て回避している。


他にも女神は様々な手段を講じたがそのことごとくを新我は解決していった。動物園の檻を壊してライオンを彼に差し向けるとライオンは腹を見せ彼に服従したし、銃を持った銀行強盗に巻き込まれた時は強盗犯を説得して更生させ、自首させた。デスゲームに参加させると、参加者全員で一致団結させ、誰一人死ぬことなくゲームをクリアした。等々。


女神が最後の手段に思いついたのは、地球を滅ぼすことだった。余計な人間も転生してくるかもしれないが、新我さえ手に入れれば問題ははないと考えたのだった。隕石魔法と転移魔法を使い巨大な隕石を地球に落とす。あわや地球滅亡かと思われたその時、宇宙船の船団が現れ隕石を破壊していった。


どういうことか?新我は自分の才能や運命が過剰であることに気づき悩んでいた。新我の運命が異常なことに人類よりも文明の圧倒的に進んだ宇宙人は気づき、新我と接触していたのだ。新我は自分自身の才能や運命の調査を宇宙人に許す代わりに、自分の手に負えない天変地異が人類を襲うときには助けてくれと頼んだのだった。


新我は破壊される隕石を見ながら、運命をもてあそぶ何者かの存在を確信した。宇宙人も同様である。


それから地球にいた女神の眷属は宇宙人によって全て狩りだされた。それらを宇宙人が研究することで異世界への転移が可能になった。


ついに女神と相対する新我。観念した女神は自分の世界がどれだけ問題が山積みで、その解決のために新我が必要かということを涙ながらに訴えた。宇宙人は表情もなくそれを聞いていたが、新我は話を聞き終えると異世界を救うことを約束した。


宇宙人に協力をしてもらいながら、山積みの問題をあっという間に解決した新我は元の世界へ帰った。また、女神は問題の一つであったので宇宙人に連れていかれた。研究材料にでもされたのであろう。女神のいなくなった異世界はそりゃあ平和で豊かになったそうだ。

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