幽霊の子
俺、事故物件に住んでたんだよ。
金もなかったし、とにかく不動産屋の人からは事故物件だけど本当によろしいんですかって何度も念押しはされたよね。
でも、俺って幽霊とか怨念とか信じてないし、霊感もないっぽかったからさ、家賃安い駅近いし広いでラッキーだなーってもう即その物件に決定。三日後には俺の城になってた。なはは。
こういう話ではありきたりなんだと思うけど引っ越してきた夜にはさっそく出たんだよ、女の人の幽霊。その時俺は布団で寝てたんだけど布団の上で何するわけでもなくふわーっと浮いてて。
え?マジ?っべー見ちゃったよー、えーやだーみたいになってたら、くわっと俺の方向いた幽霊とバッチリ目が合っちゃって。おわ~怖、怖…くない?いや死人だから目の表情は死んでるんだけど瞳は大きいし二重だし、よく見たら美人じゃない?ついでにナイスバディだし……とか思ってたらふっと消えちゃった。流石にパンツを履き替える程度には漏らしたよ。
後で調べてみたら、その幽霊さん、生きてた時に付き合ってた男がまぁクズで。散々遊ばれて、捨てられて。その上にネットに幽霊さんのそういう画像をばらまかれて仕事をクビになって、どうにもならなくなっちゃって部屋で首を吊っちゃったみたいな。ひでぇ話だ。
そのあとも幽霊さんは出てきた。調べてからは怖いよりもかわいそうになっちゃって、何とか成仏させるとか、そうでなくとも何とかしてやりたいなーって思って。いろいろやったよ。ほら、美人には幸せになってほしいじゃん。
そんな気持ちが伝わったのかわかんないけど、日に日に幽霊さん出てくる回数も増えて、距離が近くなって。向こうはずっと無口だったけど俺はいっぱい話しかけたりなんかして。初めて笑ってくれた時は嬉しかったなあ……。そんなこんなで、なんとなくいい感じになったんだよね。
それでまぁ……ヤっちゃった。流れってあるじゃん。しゃーない。
夢か現実かもう分かんないほど気持ちよかったし彼女もそうらしかった。
賢者タイムになって、かなりやばいことをしてしまったのでは?とか一瞬考えたけど隣で寝てる彼女の幸せそうな顔見たらまあいっかーって自然に思ったよな。
その後もしばらくは幽霊さんとはすげーうまくやってたと思う。
子供ができるまでは
そのころには毎日幽霊さんが出てきてたし、その……ヤッてたし……とにかく変化に気づいたのはすぐだった。
お腹が大きくなってんの。
正直頭の中は、???だった。どっかで子供なんてできるわけないって思ってたし。ただ、大きくなったお腹を優しくなでる彼女を見てたらそんなこと考えてた自分が恥ずかしくなって、絶対しっかりした父親になるからと心の中で誓った。
でも、幽霊さん相手に出来ることはまあ無い。できたのは父親になる覚悟が空回りしている俺を見せて彼女を笑わせることくらいだ。つまり、日に日に彼女のお腹が大きくなること以外、生活はほぼおんなじ。変わったのはヤる回数かな。
それからしばらくたった夜に彼女がフッといなくなって、直感で産まれるんだって思って、無事に産まれますようにって一晩中祈ってた。気が付くと寝てしまっていたけど。
目が覚めると赤ちゃんを抱いた彼女が目の前に立ってて、本当に嬉しそうだった。俺も赤ちゃんを抱かせてもらおうと思い手を差し出したのだけど、普通に考えたら幽霊だから抱けないよね。彼女は抱けるのになあ不思議だ、と思ったのは覚えてる。
おめでたい俺は食事をつくることにした。祝いの席にふさわしい豪華な料理。
その時気づいた。生ゴミをいれるゴミ箱の底に……
肉。人の形。赤ちゃん。動かない。肉の塊。
俺は何をしてしまったのだろう?
彼女はどうやって産んだのだろう?
赤ちゃんは一体何なんなのだろう?
彼女を見ると笑っていた。彼女の抱く赤ちゃんはピクリとも動かない。
その時の料理の出来は最高だったよ。
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