撮る人

真夏の海岸人ごみの間、台風の目のような場所で私はカメラを取り出す。

同じ夏は二度と来ない。多分同じ人にも二度と出会えない。

そんなわけで記録に残すことは重要だと私は考えている。

それに色んな事に使えるからね。


まずは、談笑している若いカップル、その一方にさりげなくカメラを向ける。

脚から尻にかけての線が美しい。鍛えているのだろう。肩の筋肉がしっかりしているところもよい。筋肉ってすばらしい。ついでに胸も巨乳といっても差し支えない。全身のボリューム感がダイナミック。録画録画と。


お次は中学生に入ったばかりだろう子供。二次性徴万歳。骨格の成長に肉体がついていっていないあやうさ。いっそせつなさすら感じてしまう。成長痛に鳴く声を聞いてみたい。これから汚い大人になっていくのであろうと思うと本当にもったいないと思う。いっそのこと私の手で手取り足取り大人にしてやりたい。これも録画。


カメラの方向を変える。

そこそこの夫婦……いや家族連れだな。荷物を持って子供たちの後ろを歩いている。年の割に引き締まった身体、整えた身だしなみ、それでいて夏の気楽さからくるラフな恰好。最高。髪には白いものが混ざっているが老いを見事に昇華して熟年の魅力を醸し出している。こちらの方には手取り足取り私の方が大人にしてもらいたいと思う。カメラの容量大丈夫かな。


その後も、海でおなかを出すのを恥ずかしがっているぽっちゃりさん、浮き輪にしがみつき不格好に大きな水中眼鏡をつけた幼子、ナンパを待っているのだろうかそわそわした若者たち、などなど様々な人々のもろもろをカメラに収めていく。


しかし、最後に欲を出して監視員にカメラを向けたのは失敗だった。

上着からちらちら見えるその身体があまりに美しかったためどうしても収めなければと思ってしまったのだ。


カメラ越しに目が合った。バレた。マズい。私の方にむかって早足でやってくる。逃げようにももう間に合わない。


監視員は私の前に立つとは恐る恐るといった様子で私に声をかけた。


「お姉さん」


*盗撮は迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反などにより懲役刑または罰金刑に処されます。

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