第7話――眼鏡の聖戦士現る? 7

「許可出来ません」

「何故だッ!!」

「それは、生徒会の活動の妨害に当たるからに決まっているでしょう。二年年C組、出席番号二十五番、松原晋太郎くん」

 放課後の生徒会室。チラシ配布には生徒会の許可が必要だと晋太郎から教えられたましろは、彼と共に直談判に来ていた。いや、直談判すると言いだした晋太郎に引っ張ってこられたというのが正解だろう。だが、ここは敵の本拠地だ。許可が下りるはずがない。

「分かっているでしょう? あなた方は我々全日本コンタク党の敵なのです。その敵に塩を送るような真似を、我々がするとでもお思いですか?」

 生徒会長の隣には、ショートカットで氷の彫像を思わせる、クールな女生徒が控えている。ましろは内心首を捻っていた。この二人、どこかで見たような気がする。いや、確かに入学式では会長も副会長も見てはいるんだけど、それ以外で……。

 ましろが頭の上に『?』をたくさん飛ばして何かを思い出そうとしている隣で、晋太郎は今にも掴みかかりそうな勢いで会長を睨み付けていた。

「生徒会の権限を、自分たちの目的のために濫用しようってわけか! そんなこと、このオレがゆるさない!」

「どう許さないというのかな? 暴力に訴えるとでも?」

「オレの使命は、この学園の眼鏡っ娘たちの平和と自由を守ることだ! 全校の眼鏡っ娘の運命は、オレの双肩に掛かっているんだ。オレは眼鏡っ娘たちをこの手で守りぬく!! そして、そのためには手段を選ばない!」

 そのセリフを聞いていた生徒会長は、氷よりも冷たい酷薄な笑みを口の端に浮かべた。

「奇遇ですね。我々も生徒たちにコンタクトレンズの素晴らしさを伝えるためには、手段を選びません。そして、我々には生徒会役員としての絶大な権限が与えられている。この学園の生徒会は、君たちも知っての通り単なる生徒の自治組織の枠を超えた権限を持っているのです。これでは最初から勝負になりませんね」

「そんなことはない! たとえどんな手段を使おうと、オレが貴様らコンタク党の企みを潰してみせる!」

「そんなに我々と勝負がしたいと?」

「当然だ! オレたちは学園の眼鏡っ娘たちを守らねばならないんだから!」

「そうですか。では、チラシの配布を許可しましょう」

「へ?」

 晋太郎は銀縁眼鏡の奥の目を点にして、口を半開きにしている。

「ですから、チラシの配布くらいは許可しようと言ったのです。コンタクトレンズの素晴らしさの前には、眼鏡などという無粋な道具はかすんで見えますからね。このくらいのハンディは与えてあげてもいいでしょう」

「……会長、それでよろしいのですか?」

 隣に控えるショートカットの女生徒が由隆に小声でささやく。

「なに、石橋くん。我々の戦いの目的は正しい。その正しさに生徒たちが気づけば、当然我々の側につく。心配することはない」

「よ、よし! 言ったな? 『やっぱり今のは無し!』なんて後からいうなよ!」

 生徒会長は肩をすくめると呆れたように言った。

「そんなこと言いませんよ。で、いつからチラシ配布をするんですか?」

「早速今日からだ! チラシはすでに刷り上がっている!」

 生徒会長に晋太郎の案が一蹴されることを僅かに期待していたましろは、ことの成り行きを見て再び暗澹とした気分になっていった。


      ***


「ぐ、グラスチェィンジ!」

 一瞬、ましろの身体が光に包まれ、次の瞬間ましろは眼鏡の戦士のバトルコスチュームに身を包んでいた。

 放課後の校門。まだ授業も始まっていないこの時期、クラブ見学などの生徒が多少残っているだけで、人影はまばらだ。それでもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。ましろはやたらと短いスカートの裾の部分を押さえつつ、片手にはチラシの束を持って立っていた。

「素晴らしいぞ、ましろさん! その姿でチラシを配布すれば、あっという間に我々の知名度はウナギの昇竜拳だ!」

「なんですかそれっ! それになんで松原先輩は変身しないんですかっ!」

「変身ならとっくにしているよ?」

「へっ?」

 ましろは頭のてっぺんから足のつま先まで、晋太郎をじっくりと観察する。どこからどう見ても、紺色詰め襟の男子制服姿だった。

「だから、コスチュームは眼鏡の神様の好みでデザインが決まるんだよ。オレの場合、この制服がバトルコスチュームというわけさ!」

「ううっ……。眼鏡の神様はセクハラ大魔王ですっ」

「そんなことを言うと眼鏡の神の罰が当たるよ。さあ、元気を出してチラシを配ろう!」

 そしてましろは、その微妙に露出度の高いコスチューム姿で校門をくぐる生徒たちにチラシを手渡すのだった。ましろは泣きたい気分だったが、確かに効果は抜群だった。主に男子生徒に対して。

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