第51話――魔王さんと勇者様ご一行、最終決戦! 11
強化したはずの戦闘員は倒され、地域本部から廻してもらったプロの戦闘要員もあっという間に無力化され、いまや由隆は独りきりだった。だが、由隆は余裕綽々だ。
なぜなら、彼の両目に入っているレンズの力があまりに強大だからだ。その主力兵器といえるハイグレードコンタクトレンズビームは、まさに無敵の威力だ。
「さあ、残るはおまえだけだぞ、生徒会長さんよ!」
戦闘員たちを倒しきり、晋太郎はましろと郁乃、それに陽子を伴って、優雅に見物を決め込んでいた由隆を挑発する。正直言ってまたあのビームを食らうことを考えたら、膝が震えそうになる。だが晋太郎は歯を食いしばって大地に踏ん張った。
「フフフ、やはり最後は大物が出なければ話にならんな。よかろう。この僕が、直々に相手をしてやる!」
右手で黒いマントをばっとはね除け、芝居がかった仕草で告げる由隆。その姿は、まさにコンタクトレンズの魔王だった。
「生徒会長さんよ、知ってるか? そういう言葉は、ゲームのラスボスが倒される前に吐くセリフだって!」
「だまれ、ひのきの棒のレベル1勇者が! 貴様、戦いには何の役にも立っていないだろうが!」
「ああっ! 貴様っ、言ってはならないことを言ったなっ!? オレはもう許さないぞっ!」
由隆が呆れた表情で晋太郎を見下ろしてくる。完全に見下した視線だ。
「許さなければ、どうするというのだ? この僕のビームから逃れる術でもあるというのかね?」
「うっ……そ、それはっ」
思わず言葉に詰まる晋太郎。もとより、ちゃんとした考えがあって口にした言葉ではないのだ。
「フフン、そうだろうとも。このビームを避けられたら、君たちの勝ちだ。どうだ? 試してみるか? ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
煌めくビームが、晋太郎の胸に直撃する。だが、晋太郎は倒れない。なぜなら、後ろには仲間が、大切な眼鏡っ娘たちがいるからだ。
「オレは、倒れるわけにはいかない! 仲間たちのために、学園の眼鏡っ娘たちの平和を取り戻すために、コンタクトの魔王、貴様を倒す!」
「よく言った。だが、いったい何発まで耐えられるかな? ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
またしても直撃。そして三度目も直撃。晋太郎は半ばもうろうとした意識の中で、自分が倒れられない理由を繰り返していた。背後にいるのは、かけがえのない仲間であり眼鏡っ娘たち。そして、眼鏡っ娘は自分の身を犠牲にしてでも守るべき存在。
「オレは倒れない! たとえそのビームがいかに強力であろうとも!」
その時、追い打ちのビームを撃とうとした由隆の足下に、金色に光る矢が突き立った。
「よく言ったわ、松原くん。彼のビームには、重大な欠点があるのよ!」
鈴を鳴らすような美しい声が、晋太郎の鼓膜を震わせる。
「白石先輩! 無事だったんですねっ!」
弓を片手に、巫女装束の水琴が体育館の方から歩いてきた。その装束は所々が切り裂かれ、頭からは血が流れて顔と白衣を濡らしている。そんな姿の水琴を無事と呼んでいいものかは別にして、いま、この場に『眼鏡に選ばれし者』が四人揃ったのだ。
しかも、水琴はコンタクトの魔王のビームに重大な欠点があるという。
「石橋君を倒してきたか。だが、僕のこのビームは無敵だ! 欠点などあるものか!」
「松原くん、それにみんなもよく聞いて。彼のビームの欠点は、一度に一つの目標しか狙えないこと。これが何を意味するか、もう分かったわね? つまり、松原くんがおとりになって彼を引きつければ、他のみんながその間に魔王を倒せるの」
「な、何でオレなんですかっ! おとりって、それって『ビームを食らい続けろ』って言うことですよねっ?」
「今はそれしか手がないわ。いい? 他のみんなも協力して! 今から松原くんがおとりになってくれるわ! その隙に魔王を倒すわよ!」
「ちょ、ちょっと待って! オレがおとりになること前提ッ!?」
周囲の仲間の方を見まわす晋太郎に、無言の圧力が加えられる。そう、すでにこれは決定事項なのだ。こうなったら、やるしかない。
「くそぅ! おい、生徒会長! いや、コンタクトの魔王! 今からオレが貴様をぶん殴りに行ってやるから覚悟しろ!」
晋太郎は下腹に力をいれて、震える膝を根性で押さえつけながら、由隆に言い放った。
もう後戻りはできない。
「いいだろう、さあ、来たまえ! ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
走り出した晋太郎の肩をビームがかすめる。無駄な努力かもしれないが、小さなフェイントを織り交ぜてビームの照準を狂わせようと試みる。何しろ目からビームが出るのだ。見えているものは、完全にロックオンされると考えるのが当然だろう。
由隆は昇降口の階段の上から飛び降り、所々に戦闘員が倒れている中庭に立った。晋太郎は急激に角度をかえつつ、由隆に迫る。
「それっ! ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
「ぐああっ! まだまだぁ!」
晋太郎はビームを食らいながらも、細かいフェイントを入れて由隆を揺さぶる。
太陽より眩しいビームが晋太郎を襲う。必死にそれをかいくぐりながら晋太郎は由隆との距離を詰める。
「それそれ、どうした! ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
眼鏡の力で強化された晋太郎の脚力に、同じく強化された革靴が悲鳴をあげはじめた。
まっすぐ突っ込み、急激に方向を変え、円を描き、時に後ろに飛び退る。
晋太郎は走った。自分の脚に仲間たちの命運がかかっている。
戦いではほとんど何の役にも立たない晋太郎だが、コンタクトの魔王と化した由隆の視線をその身に浴びることで、仲間たちをビームから守ることが出来る。
ましろを、郁乃を、水琴を、そして陽子を。
多くのかけがえのない学園の眼鏡っ娘たちを。
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