第49話――魔王さんと勇者様ご一行、最終決戦! 9

 風を切って鋼鉄の三節棍が唸りを上げる。陽子の周囲は、戦闘員だけでなく、いつの間に現れたのか、ダークスーツの男たちが取り囲んでいた。

「ふっふ~ん♪ 見かけない顔のお兄さん方だけど、どうやら敵のようね。下がらないと、この三節棍のさびにしてくれるわよ!」

 まず、ダークスーツの男の一人が動いた。それは戦闘員とは比べものにならないほど、速い動きだった。

「お、速い速い!」

 陽子はまるで相手を褒めるかのような調子で声を上げる。だが、次の瞬間、陽子の三節棍がダークスーツの男の胴体にめり込んでいた。

「手応えバッチシ! 野球ならホームランね。スカウトとかきたらどうしよう。ウチこまっちゃう~」

 陽子が身をくねらせていると、もう一人のダークスーツの男が、すっと陽子の背後に忍び寄った。その手には黒いスタンガンが握られている。

「あいにくと、背後を取られるのは好きじゃなくてねー。動きはバッチリ把握済みよん」

 一つに畳んだ三節棍を、脇の下から背後に突き出す。狙い違わず、三節棍の先端は男の鳩尾を直撃した。スタンガンを取り落とし、崩れ落ちる男。陽子は男が落としたスタンガンを拾うと、首筋にそれを押し当ててスイッチを押した。バチンという音とともに、男の身体が跳ね上がる。

「これで動けないでしょ。しかし、面白いおもちゃ拾ったわ。倒した相手のとどめに使おうかしら」

 陽子は自分を取り巻く戦闘員や、ダークスーツの男を見まわすと、ニヤリと微笑んでみせた。それを見たダークスーツの男たちの包囲の輪がじわりと広がっていく。だが、一瞬逃げるようなそぶりをみせた男たちだったが、互いに目配せすると三人が一度に陽子に飛びかかってきた。

 陽子は片手に三節棍を、もう片方の手に男から取り上げたハイパワーのスタンガンを持ち、舞うようにして男たちの包囲をすり抜けていた。

「ああっ、いまウチのふともも覗いたヤツいるでしょ! まあ覗かれて恥ずかしいようなみっともないスタイルじゃないからいいけど」

 唇を尖らせて陽子はジト目で男たちを見まわす。だが、ダークスーツにサングラスの男たちは、表情一つ変えずに次の攻撃に備えていた。

「ふうん、今度は待ちでくるわけね。待ちは対戦で嫌われるわよっ!」

 言葉が終わらないうちに、陽子は男たちとの間合いを一気に詰めて三節棍を叩き込んでいく。鋼鉄の三節棍が一人の男のあばらを砕く感触が陽子の手に伝わってくる。男が前のめりに倒れ込みながらも、何とか腕を伸ばし手にしたスタンガンで陽子に一撃を加えようとする。だが、男の手は空しく宙を泳ぎ、どさりと音を立てて石畳の中庭に倒れ伏した。

 男たちの表情に僅かな怯えの色が浮かぶ。やがて、こちらも蜘蛛の子をちらすように、戦闘員やスーツ姿の男たちが逃げはじめていた。

「おおっと、生憎ウチは狙った獲物は逃がさないタイプでね。逃げられるとっ、思ったらっ、大間違いっ、なんだからっ!」

 叫びながら陽子は三節棍を次々に戦闘員やスーツの男に叩きつけていく。全員を昏倒させたあとは、お楽しみタイム。電撃ショーの始まりだ。

「えいっ!」

 バチバチバチっ!

「えいっ!」

 バチバチバチっ!

「えいっ!」

 バチバチバチっ!

 陽子は楽しそうにスタンガンのスイッチを押し続けていた。その度に男たちの身体が陸に打ち上げられた魚のようにビクビクと痙攣する。

「部長……。楽しそうですね」

「楽しいわよ? 松原くんもやってみる?」

「いえ、遠慮します。これじゃどっちが正義か悪か分からないですから……」

 倒した男たちを片っ端から電撃にかけ、陽子は実にいい笑顔を浮かべていた。


      ***


「コンターック!! 一番美味しそうな獲物がこの俺様の目の前に!!」

「コンターック!! 抜け駆けはナシだぞ、同志!!」

 ましろの周りには、学園の制服に黒覆面のコンタク党戦闘員がわらわらと集まっていた。全員の目が興奮で血走っている。無理もない。ましろが動くたびにスカートからは見えてはいけない布地がチラチラと絶妙な覗き具合で見え隠れする上に、上着の裾の下にはかわいらしいおへそがバッチリみえているのだ。

 しかも、脚を覆うのは白のオーバーニーソックス。ミニスカートとニーソに挟まれた絶対領域の柔肌に、どさくさに紛れて触れようとする戦闘員も数え切れないほどいた。

「私……、ただ松原先輩に助けられているだけの、弱い女の子のままじゃいられません!」

 ましろは革の手袋に包まれた両の拳をぐっと握る。眼鏡が、彼女の身体の一部が、戦えと言っている。お前にはそれが出来ると、心に囁いている。

 ましろは、その眼鏡の導きに心を開き、自分の身体の中で新たなエネルギーが燃え上がっていくのを感じていた。この力があれば、私は負けない。そう確信させる力が、身体に、そして心に充ち満ちていた。

「コンターック!! 貴様は所詮、お色気担当の雑魚ヒロインに過ぎない! おとなしく俺様たちの慰み者になるがいい!!」

 三人の戦闘員が同時に掴みかかってくる。その手がましろの身体に触れるかと思われたその時、ましろは右足で地面を蹴り、正面の戦闘員の顎を左爪先で、次いで右爪先で撃ち抜く。見事な二段蹴りが炸裂し、戦闘員は見えてはいけない布地の記憶だけを抱いて昏倒した。

 着地と同時に、今度は身体を左に捻りつつ、跳躍する。向かって左から襲いかかって来た戦闘員の側頭部にましろの右足が直撃し、戦闘員はもんどり打って吹き飛ばされる。その身体は、同時に襲いかかっていたもう一人の戦闘員にぶつかり、もつれるようにして地面に転がった。

「私は、お色気担当の雑魚ヒロインなんかじゃありません! 私は『眼鏡に選ばれし者』……メガネンジャーです!」

 ましろを取り囲んでいた戦闘員たちが、思わぬましろの攻撃と気迫に一瞬ひるむ。ましろはその隙を見逃さなかった。眼鏡が導くとおり、そして、部活の時間に練習していたとおり、自在に自分の身体を動かし、武器とする。

「コンターック!! この女、これほどまでに強かったのか!!」

 驚愕の叫びを上げた戦闘員が、ましろの掌打を鳩尾にうけて崩れ落ちる。崩れ落ちつつも、視線をなんとかましろのスカートの内側に合わせようとしたが、視界に飛び込んできたのは、固い靴の裏だった。

「さあ! 本当の私の力、味わいたい人は前に出なさい! 私はメガネンジャー! コンタク党を倒すために選ばれた戦士よ!」

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