第41話――魔王さんと勇者様ご一行、最終決戦! 1
早朝の校門前に、黒い覆面で顔を半分隠した少年と少女が立っていた。
もう、その正体はバレバレだというのに、なぜ仮面に拘るのかがましろには理解不能だ。
「遅かったな、『眼鏡に選ばれし者』、メガネンジャーたちよ!」
「……これで遅いなら、一体何時にここに来ればいいんだ?」
晋太郎のぼやきももっともだ。なにしろ、まだ六時を十五分ほどしか過ぎていない時間なのだから。
「やかましい! これまでよくもこの僕を慰み者にしてくれたな! コンタクトレンズの魔王となった、この僕の力の前にひれ伏すがいい!」
「眼鏡の神様が言ってたのは、コレのことか……」
由隆は頭から湯気が出るほど顔を赤くした。
「コレとはなんだ、コレとは! コンタクトの魔王に対して無礼であろうが!」
「コンタクトの魔王ねぇ……、ボクには相変わらずの小物に見えるけどなぁ」
「そうですね。わたしに告白してくれた時は、ちょっとオシャレな眼鏡の似合う美少年、という感じでしたのに」
「ぬぅぅぅぅっ! 言わせておけば昔のことをゴチャゴチャと! それになんだ、言うに事欠いて、僕のことを小物だと? よかろう! 我が新たなる力を見るがいい!」
由隆はマントをばばっと翻し、両手の人差し指と中指を目の端に当てて、腹の底から叫んだ。
「ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
凄まじい閃光が由隆の両眼から発せられる。それと同時に耳をつんざく轟音が背後から聞こえる。四人の後ろにあった軽乗用車が、一瞬にして鉄くずになっていた。違法駐車とはいえ、あんまりな仕打ちだ。
「どうだ、この破壊力! この力こそコンタクトの魔王の力! さあ、我をあがめよ!」
ましろは、驚きのあまり動けなかった。あのビームを防ぐ手立てなどあるのだろうか?
「おっと、動くな! ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」
水琴が僅かに間合いを詰めようとしたところにビームが飛んでくる。靴を焦がしそうなほど近くに着弾したビームに、水琴の表情が凍る。
「君たちも命は惜しいだろう。黙って僕が全生徒の『眼鏡解除』を行うのを見ているがいい。そうすれば、黒こげにはしないでおいてあげるよ」
由隆は黒マントを翻し、もう用は済んだといわんばかりの態度で、校舎の方へ歩いて行く。その隣には百合香が影のように寄り添っている。
「待って。あなたたち二人、去年は眼鏡をかけていましたよね。わたしは覚えています。なのに、何故そこまで眼鏡を憎むのですか?」
水琴の言葉に、ふと足を止める由隆。百合香は何も言わずに由隆に視線をやる。その視線を受けた由隆は、答えるまでもないという態度で水琴を見た。
「簡単なことだ。眼鏡より、コンタクトレンズが優れていた。そのことに僕が気づいただけのこと」
それだけ言うと、今度こそ二人は校舎に向けて歩み去った。
***
その日の一限目は、全校集会だった。生徒会からの重大発表がある、という噂は、あっという間に全校生徒に知れ渡った。
「重大発表って、なにかな!」
「また『眼鏡禁止』とかじゃないの?」
「あの生徒会長、顔もスタイルも結構カッコイイのになぁ。言うことがおかしすぎて、損しまくりだと思うなー」
女三人寄ればかしましいと昔からいうけれど、仁正学園においてもそれは変わらなかった。なにせ、女生徒が総生徒数の七割を占める学園だ。こういうときは男子生徒たちは肩身が狭い。
(全校集会自体は、恒例の行事だ。だが、今日のそれはきっといつもの集会とは違う)
晋太郎はそう確信していた。きっととんでもない集会になってしまうだろう。
やがて、朝のホームルームがいつも通りにはじまり、いつもより短めに終わる。体育館のメインアリーナでの全校集会のために、全校の生徒が移動するのだ。晋太郎たちのクラスも校内放送の呼び出しを待って、全員が移動を開始した。
(こうして見ると、やっぱりこの学校には眼鏡っ娘が多いよな。この中から四人の戦士が集ったのは、やっぱり眼鏡の神さまの思し召しか)
ぞろぞろと廊下を移動する生徒の列。全校生徒が二〇〇〇人を超えるこの仁正学園の体育館は、とても大きく、校内でも一番目立つ建物だ。その体育館のメインアリーナに、生徒がすべて収まるまでにはかなりの時間がかかる。だが、教師たちの誘導も手慣れたもので、大きな混乱はなかった。
ステージの上には大きな幕が掛かっており、そこには「全校集会」と迫力のある筆遣いで書かれている。演壇にはマイクが設置され、全校集会の主役を待ち構えていた。
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