第40話――魔王誕生 3

「ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」

 その声は早朝の街に響き渡った。眼鏡のサポートなしでも十分に聞こえるほどに。

「今の声は、生徒会長さんですっ!」

 どさりと、ましろの背後で何かが地面に落ちる音がした。振り返れば、一羽の鳩が黒こげになって、ひくひくと動いていた。

「ああっ! 平和の象徴の鳩さんが黒こげに! 一体誰がこんな非道いことをっ!」

「ク……クルックー……がくっ」

 その時、ましろには鳩の心の声が聞こえたような気がしていた。『飛んでいたら、いきなりビームを食らった』と。

「さっきの声、確か『なんとかビーム』と叫んでましたっ! きっと会長さんが何か鳩さんに危険な技を仕掛けたに違いありません!」

 ましろは両手で鳩の亡骸を抱えると、仲間の待つバス停の方へと歩み始めた。


      ***


「なんだって? それじゃあ、その鳩は生徒会長の技で黒こげにされたっていうのか?」

 ましろが丘の途中の木の根元に鳩を葬りながら、さっきあったことを三人の仲間に告げる。手が汚れるのも厭わずに、土を掘り、鳩の亡骸を埋める。

「確かにあの声は会長さんのものでしたっ! そして、その直後にあの鳩さんが落ちてきたんです。間違いなく、会長さんの仕業です!」

 郁乃がウェットティッシュをましろに手渡してくれる。

「でもさ、ボクにはあの会長が一番の小物に見えてたんだけどなぁ。そんな必殺技があるんならとっくに使ってそうなんだけど」

「それもそうですね。あの会長さん、女の子の背中に隠れて怯えていましたもの」

 水琴も納得いかなさそうに首をかしげる。

「能ある鷹は爪を隠すといいますけど、あの会長さんはそんなタイプには見えませんし……。わたしに告白してきた時にも、一言お断りしますと言っただけで涙目に……あ」

 何かを思いだしたように視線を空中に泳がせる水琴。やがて、ポンと手を打つと、水琴は意外な事実を口にした。

「あの会長さん、去年は眼鏡かけてらっしゃいましたよ。わたしに告白してきたときに、隣にショートカットの女の子が……。あの子、副会長さんだわ」

「で、それが一体何だって言うんです、白石先輩?」

「……もしかして、眼鏡の根絶なんてことを考えたの、わたしのせいかもしれない」

「「「はぁ?」」」

 ましろを含めて三人の声が綺麗にハモった。そのくらい素っ頓狂な話に思えたのだ。

「いえ、あの会長さんって元々は眼鏡フェチっぽい趣味だったと思うんです。わたしには『その眼鏡をかけた知的な顔がいいんだ』なんて言ってましたし」

「眼鏡が好きだった彼が、眼鏡をそこまで憎むようになった……。確かに、白石さんのせいかもしれませんね」

「わたしせいってのは否定はしませんが、それって逆恨みでしょう? いまさら『眼鏡を学園から根絶する!』なんて言われても、わたし、責任取れません」

 四人の眼鏡戦士たちは、今までの由隆の小物ッぷりをそれぞれ思い出していた。

「確かに……逆恨みな上に、あまりにもセコい理由ですっ! そんな事の巻き添えにされた鳩さんが、あまりに不憫ですっ!」

 ウエットティッシュで拭いても、まだ土の汚れが残っている両手をぐっと握りしめ、ましろは言い切った。誰も異論を唱える者はいなかった。

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