第32話――闘う文学少女 7

 シートがリクライニングされ、一人の少女が天井の方を向いている。天井のルームライトが灯され、少女の顔を照らし出していた。

「では白石水琴さん、これからレンズを入れます。痛くはありません。すぐに済みますから安心してください」

 百合香が人差し指にレンズを載せて、少女の――水琴の顔をのぞき込む。初心者にコンタクトレンズの入れ方を指導するのはもう慣れたものだった。

「まずは右目から。あのライトをじっと見ていてください……。済みました。では左目……。済みました。いかがですか?」

 水琴は何度か瞬きしていたが、やがて覆面姿の百合香と由隆、それに戦闘員の方をみると、にっこりと微笑んだ。

「とても、よく見えます。本当に、自分の目だけで見ているみたい……」

「どうです? お気に召しましたか、白石さん?」

 由隆は「どうだ、コンタクトレンズはすばらしかろう」と言わんばかりに胸を張っている。

「そうですね。とりあえずは気に入りました。……それで、わたしの眼鏡を返していただきたいのですが……」

「よろしい。コンタクトに乗り換えたことも確認出来ましたし、お返ししましょう。石橋くん、彼女の眼鏡を」

 だが、百合香はこのまま眼鏡を返して良いものか迷っていた。いや、危険な予感を感じていたと言ってもいい。なぜならこの女は――

「どうしたね。早く彼女に眼鏡を返してさしあげなさい」

「は、はい……」

 百合香は傷がつかないようにハンカチで包んだ銀色のハーフフレーム眼鏡をウエストポーチから取り出すと、そっと水琴に手渡した。

 水琴は眼鏡を取り出すと、そのフレームを愛しげに指で撫で、制服のブラウスの胸ポケットにそっと収めた。

「では、白石さん。我々の要求は先ほども言った通りです。今後はそのコンタクトを使用してください。よろしいですね?」

 すみれの花のほころぶような笑顔を浮かべ、水琴は答えた。


「お断りします」


      ***


 ピィィィィィィィィン!

 三人の眼鏡が同時に共鳴音を発する。頭に直接響いてくる音に顔をしかめながら、晋太郎は叫んだ。

「来たぞ! 眼鏡がオレたちを呼ぶ声が!」

「方向もわかりますっ! こっちです!」

 叫ぶと同時に駆け出すましろ。全員が同じ方向へ走り出していた。

「この方向と距離……おそらく森林公園だ! みんな、変身して行くぞ! ……グラスチェィンジ!」

「「グラスチェィンジ!」」

 眼鏡の力で変身した三人は、建物の屋根を大きくジャンプしながら、森林公園へと向かう。その姿は、まるで空を駆ける鳥のようだった。

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