第25話――魔法のチャイナドレス 13
翌日、仁正学園は臨時休校になった。
「話はとりあえず分かったわ。要するにウチは『眼鏡に選ばれし者』に間違われて、生徒会の……コンタク党の連中に拉致されたってことね」
「その通りです。部長が言ってたストーカーってのは、コンタク党の偵察要員ですよ」
いつもの駅前のファーストフード店に集まった三人の『眼鏡に選ばれし者』たちは、昨晩助け出した陽子に状況の説明をしていた。
「で、松原くんの話によると、『眼鏡に選ばれし者』はあと一人残ってるわけよね。それが誰かは分かってるの?」
晋太郎はずずずっと音を立ててコーラの残りを啜り込むと、首を横に振った。
「『眼鏡に選ばれし者』がその力に目覚めるには、コンタク党に襲われなければならないんです。部長の時と同様に」
「じゃあ、ましろちゃんも、郁乃ちゃんも襲われたの?」
「ええ。その度にオレが颯爽と現れて、彼女たちの力を解放してきたわけです」
「……あれのどこが颯爽としてたのか、ボクにはすっごく疑問なんだけどなぁ。ましろちゃんは颯爽としてたけど」
郁乃がましろに視線を移すと、ましろは頬を赤く染めて、両手をそのはち切れそうな胸の前で振った。柔らかそうな胸も手の動きに合わせてぷるんと震える。
「そ、そんなことありません! それに、力に目覚められたのは、やっぱり松原先輩のおかげですっ!」
「話を戻すけど、要するにもう一人の『眼鏡に選ばれし者』を探すためには、生徒会……コンタク党の動きを放置する必要があるわけね」
紙コップの蓋を開けて氷をガリガリ囓っていた晋太郎がこくりと頷く。
「多分、連中は『眼鏡に選ばれし者』の有力候補者のリストでも持っているんでしょう。的確にましろさんや郁乃を探り当てている点を考えても、まず間違いないでしょうね」
「こっちにはそういうリストはないの?」
「あるわけないでしょう? ウチの学校、生徒総数二〇〇〇超える超マンモス校なんですよ? そのうち七割が女子生徒で、さらにそのうち何人が眼鏡をかけているか……。
生徒会や職員ならそういう情報も持ってるでしょうけど、オレたちには入手出来るものじゃありませんよ」
陽子はブラックコーヒーをすすりながら、眼鏡の奥の瞼を閉じて考え込んでいたが、ふと何かを思い付いたように目を開いた。
「それならさ、無理して最後の一人を捜し出す必要ないんじゃない? ウチらだけでもコンタク党の企みくらいつぶせそうだし」
「それはダメです」
「どうして?」
ましろと郁乃も何故だろうという疑問を眼鏡の奥の瞳に滲ませながら、晋太郎を見つめる。全員の注目を浴びながら、晋太郎は口を開いた。
「オレは時折、眼鏡の神様の夢をみるんです。夢の中で眼鏡の神様がいうには、オレたちの真の力は、全ての『眼鏡に選ばれし者』が揃ってはじめて使えるのだそうです」
「なんか胡散臭い話になってきたわねぇ……。でも、ウチも眼鏡の力とやらは体験したし、信じるしかないか。よし! 決めたわ! ウチも松原くんたちに協力する! 衣装なら任せておいて。とっておきの『魔法のチャイナドレス』があるから!」
「い、いや……それは……」
「なによぉ、私の腕じゃ不安だって言うの?」
「そ、そうは言いません。でも、相手はタダの生徒じゃない。コンタク党に強化された戦闘員たちですよ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「問題大ありですよ、部長! それにそのセリフ、昔大コケした某ゲームの主役のセリフじゃないですか! 著作権的にヤバイからやめて下さい!」
こうして、『眼鏡に選ばれし者』ではなかった陽子は、自分から戦いの中に身を置く事を決めてしまったのだった。
***
仁正学園のある高台から、尾根伝いに数キロいくと、ちょっとした森林公園がある。
その森林公園の無料駐車場に、二台のバンが停まっていた。
「くそっ、くそっ、くそぉっ! あと一歩で春日野陽子にコンタクトレンズを入れられたというのに、またしても『眼鏡に選ばれし者』が邪魔をしおってからに!」
「コンターック! しかし、春日野陽子が『眼鏡に選ばれし者』ではなかったということは、我々にとっては幸いだったのでは?」
「うるさいなっ! そんなことは僕だって分かっているんだ! でもな、ほら、釣り逃した魚は大きく感じるものなんだよ!」
荒れに荒れている仁正学園生徒会長兼コンタク党支部長だった。
「生徒会室も当分は使えない。だが、幸い我々には移動要塞ともいえるこのバンがある! 活動には支障はない!」
「このバンですが、レンタカーですよ、会長」
百合香が無表情に告げる。
「え? そうだったのか?」
「返却期限まであと三日です。地域本部の予算だって苦しいのですから、延長は恐らく認められません」
由隆の顔色は百合香の離しが進むごとに青ざめていく。
「そんな……。つまり我々はあと三日の内に最後の『眼鏡に選ばれし者』を見つけ出し、奴らより先にコンタクトに鞍替えさせなければならないのか!」
「端的に言うとそういうことです」
「出来なければ……」
「あなたはクビでしょうね」
「そんなのはイヤだぁぁぁぁぁぁっ!」
頭を抱えて身をくねらせる由隆に、百合香は無表情に、しかしはっきりと言い切った。
「大丈夫です、会長。必ず我々が先に見つけ出します。そう、必ず……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます